司法はどんな権限で、裁判所はどんなしくみで動いているのでしょうか。
この記事では、
日本の司法について、司法権/裁判官/裁判所/裁判制度など、あらゆる知識を整理していきます。
【司法権とは何か:法の支配と3つの訴訟】
ここでは、「司法とは何か?」という素朴な疑問について、司法権の意味と3つの訴訟の違いを整理します。
司法権とは?「法を司る権利」と法の支配
司法権とは、法を司る権利です。
「司る」とは「担当する」という意味なので、法の専門家が法律に基づいて判断する権利ということになります。
もう少し政治的に言うと「法の支配」を実現する権利とも表現できます。
なお、法の支配を実現する方法として、訴訟が用いられます。
訴訟の3種類:民事訴訟・刑事訴訟・行政訴訟
また、訴訟の種類は全部で3種類あります。
民事訴訟・刑事訴訟・行政訴訟の3種類です。
(ちなみに、刑事訴訟は検察官(訴える側)と被告人(訴えられる側)との争いになります。)
民事訴訟だけにある「和解」という解決方法
なお、民事裁判だけは和解という解決手段があります。
和解とは、裁判の途中で訴えた側と訴えられた側がお互いに譲り合って、話し合いで争いを解決するという方法です。
【司法権の独立と裁判官の身分保障】
司法権の独立とは?対外的独立と対内的独立の2つの側面
そして、司法権は「司法権の独立」が保障されています。
要は、裁判官は誰にも邪魔されないという話です。
それを保障するため、裁判官は「良心に従ひ、独立してその職権を行ひ、この憲法と法律にのみ拘束」されるとなっています。
また、司法権の独立は「対外的独立」(立法や行政などの他の国家機関から邪魔されない)と「対内的独立」(司法内部から邪魔されない)の2つを保障しています。
(それだけ、裁判官は守られる存在のため、裁判官は在任中に報酬が減額されないという特徴もあります。)
裁判官が罷免される3つの理由
さらに、裁判官が罷免される理由は全部で3つです。
1つめは「心身の故障」です。心と身体が壊れたら罷免という話です。
2つめは「弾劾裁判所の決定」です。国会の判断で裁判官を罷免される可能性があります。
3つめは(最高裁判所裁判官のみの)「国民審査」です。衆議院議員選挙のときに、否決の投票を行います。
つまり、裁判官が罷免されるのは 「心身の故障・弾劾裁判所の決定・国民審査」 の3つだけだというわけです。
判例で学ぶ司法権の独立:大津事件と平賀書簡問題
〈※参考:「司法権の独立」に関する事件〉
対外的独立に関する事例を大津事件、対内的独立に関する事件を平賀書簡問題と言います。
大津事件とは、1891年に来日中のロシア皇太子が滋賀県大津市で警察官の津田三蔵という巡査に襲われて負傷した事件を指します。(津田巡査は、ロシア皇太子が日本に来たのは日本を侵略するための準備である、という噂を信じたためにロシア皇太子を襲ったと言われています。)この事件に対して、日本政府は襲った警察官に死刑を求刑しました。(ロシアとの外交を考えた時に、死刑にしておいたほうがよいだろう、という日本政府の判断です。)ところが、本来の日本の法律に従うと死刑は出せず、無期懲役の判決となります。そこで、担当の裁判官が日本政府と本来の法律のどちらに従うべきか悩んでしまいました。その時、大審院(当時の最高裁判所)の長であった児島惟謙という人が「司法権は独立しているから、日本政府の干渉を判断基準とする必要はない」として激励し、本来の法律に従って判決が出されたという出来事がありました。この出来事は、日本政府という対外的なものから「司法権の独立を守った」として有名な事件になっています。なお、日本史では、大津事件を受けて当時の外務大臣だった青木周蔵という人が責任を取って辞任したということも扱われます。
また、平賀書簡問題とは、札幌地方裁判所で行なわれた長沼ナイキ基地訴訟(自衛隊の基地建設について、憲法9条違反であることを根拠に止められるかという訴訟)について、担当となった裁判官に当時の札幌地方裁判所の所長であった平賀健太という人が「国が裁判で負けるのはまずい」と考えて、判決の方向性をまとめたメモ(このメモを書簡と言う)を担当の裁判官に渡したという問題です。本来、裁判官は良心に従い、独立してその職権を行うことになっているのにもかかわらず、書簡を渡したことは裁判の干渉に該当して司法権の独立に反するのではないか、ということで注目されました。この問題は裁判官が別の裁判官に干渉したという対内的独立を侵害しているとして話題になりました。
【日本の裁判制度:裁判所の種類と三審制】
ここでは、日本の裁判所がどのような種類に分かれていて、三審制がどのような制度なのかを確認します。
裁判所の種類:最高裁判所と4つの下級裁判所
裁判所は、「最高裁判所」と「下級裁判所」の大きく2種類に分かれます。
また、下級裁判所は「高等裁判所」、「地方裁判所」、「家庭裁判所」、「簡易裁判所」の4つをまとめて表現します。
(現在、高等裁判所は知的財産を専門に扱う知的財産高等裁判所もあります。
また、家庭裁判所は「少年事件」と「家庭内事件」の2つを対象として裁判を行います。)
ちなみに、下級裁判所の裁判官は10年という任期がありますが、再任もあるため、長く働く裁判官も多くいることになります。
裁判所の禁止事項(特別裁判所の設置と行政機関の終審)
なお、裁判所については禁止されていることが2つあります。
1つは、特別裁判所の設置の禁止です。
特別裁判所とは、戦前の行政裁判所・皇室裁判所・軍法会議という3つを指しますが、これらは全て設置が禁止されています。
もう1つは、行政機関が終審(最終的な判決)を出すことの禁止です。(行政機関の終審を認めてしまうと、三権分立に反してしまいます。)
そのため、戦後から現在まで行政裁判所は存在しません。
ただし、行政裁判は現在も行なわれるため、最高裁判所が行政裁判について判決を出すことはOKであること、
終審の前段階までであれば行政機関の裁判はOKであることには注意が必要です。
(ここでいう行政機関とは「行政委員会」を指します。行政委員会は準司法的機能があるため、裁判のようなことができますが、行政委員会は最終確定前の審判であればOKということになっています。)
裁判の公開と「裁判を受ける権利」
また、裁判の監視として、裁判は原則公開になっています。
(裁判官の判断で、場合によっては非公開もありえます。)
そして、「裁判を受ける権利」が保障されています。
三審制とは?控訴・上告の意味
さらに、「三審制」という制度が設けられており、1つの裁判について同一事件で3回まで裁判することができるとされています。
なお、1回目の裁判に納得いかず、2回目の裁判を行うことを「控訴」と呼び、2回目の裁判に納得いかず、3回目の裁判を行うことを「上告」と呼びます。
【憲法と裁判に関わるキーワード(違憲審査権・統治行為論)】
違憲審査権とは?すべての裁判所が持つ権限
裁判所が、法律や命令などについて違憲かどうかを判断する権利のことを違憲審査権と呼びます。
担当は全ての裁判所ですが、最終的に判断する権限は最高裁判所が持ちます。
そのため、最高裁判所を別名で「憲法の番人」と呼びます。
付随的違憲審査制:具体的事件を前提にだけ違憲審査をする制度(日本・アメリカ)
また、日本の違憲審査権は「具体的な事件を前提として、その事件を解決する上で必要な限度でのみ違憲審査を行う」ことになっています。
このような制度を付随的違憲審査制と呼びます。
(アメリカもこの制度を採用しています。)
つまり、「具体的事件を前提とせず、法令や国家行為に関し憲法判断を行う」わけではないということです。
そのため、日本で違憲審査権を出した場合、その事件にのみ法律が無効となります。
要は、法律が違憲だからといって法の削除は行わないということです。(法の削除は国会の仕事だからです。)
抽象的違憲審査制:憲法裁判所が法律を直接チェックする制度(ドイツ・フランス)
なお、具体的事件を前提としない違憲審査制を抽象的違憲審査制と呼びます。
(ドイツやフランスはこの制度を採用しています。)
そのため、法律や命令などが成立した後にすぐ憲法裁判所で審査し、違憲の場合は作られた法律や命令がすぐに無効となります。
イギリスは特殊な立場
また、イギリスはそもそも違憲審査権がありません。
統治行為論とは?高度な政治問題は裁判の対象外とする考え方
高度に政治的な問題は違憲審査の対象外とする考え方を統治行為論と呼びます。
(司法の判断を回避しているのと同じ状態です。)
もう少し柔らかく言うと、選挙制度や安保条約のような、政治的に重すぎる問題は裁判所が口を出さないという考え方を指します。
なお、統治行為論の有名な例として、砂川事件や長沼ナイキ基地訴訟などがあります。
▶ 長沼ナイキ基地訴訟を確認したい方はこちら(【自衛隊に関する判例:統治行為論を考える】)をご覧下さい。
【※参考:司法と裁判のまとめ】
このブロックで確認すること
・司法権と司法権の独立
・裁判所のしくみ(三審制ふくむ)
・違憲審査権と統治行為論
1.司法権&司法権の独立
○司法権とは
・法にもとづいて争いを解決する権限(=法の支配を守る力)。
・訴訟は 民事・刑事・行政 の3種類(民事だけ和解もOK)。
○司法権の独立&裁判官の身分保障
・裁判官は「良心+この憲法と法律」にのみ拘束される。
・罷免できるのは「心身の故障/弾劾裁判所の決定/最高裁判所裁判官の国民審査」の3つだけ。
2.裁判所のしくみと三審制
○裁判所の種類
・最高裁判所 +高裁・地裁・家裁・簡裁(4つの下級裁判所)。
・特別裁判所は禁止/行政機関が「最後の判決」を出すことも禁止。
○三審制
・同じ事件で最大3回まで裁判を受けられるしくみ。
・1審→2審:控訴/2審→3審:上告。
3.違憲審査権と統治行為論
○違憲審査権
・裁判所が、法律や命令が憲法に反していないかをチェックする権限。
・すべての裁判所が持つが、最終判断は最高裁 →「憲法の番人」。
○付随的違憲審査制(日本)
・具体的な事件を前提に、その事件を解決する範囲でだけ違憲かどうかを判断。
○統治行為論
・安保条約・選挙制度などの「高度に政治的な問題」は、裁判の対象外とする考え方。