これからの日本の農業はどうあるべきなのか(日本の農業の変遷と現状)【6-3】

  1. 【日本の農業の現状①:農業人口と担い手の視点】
      1. 〈日本の農業人口〉
      2. 〈農業人口の高齢化(=若者の担い手の減少)〉
  2. 【日本の農業の視点②:「保護vs自由化」の対立」】
      1. 〈日本の食料自給率の特徴〉
      2. 〈日本農業の「保護」の視点(食料安全保障論)〉
      3. 〈日本農業の「自由化」の視点〉
  3. 【日本の農業の変遷①:農業基本法】
      1. 〈日本の戦後農業(農業基本法)の目標と目指すところ〉
      2. 〈なぜ兼業化が進み、自立経営農家の育成が難しかったのか〉
  4. 【日本の農業の変遷②:食糧管理制度】
      1. 〈米価を政府が管理するという発想〉
      2. 〈食糧管理制度のしくみ〉
      3. 〈食糧管理制度によって起きた2つのこと〉
      4. 〈食糧管理制度に対する減反政策〉
  5. 【日本農業の近年の動き】
      1. 〈農業の国際的動き(GATTウルグアイラウンド)〉
      2. 〈コメの部分開放・日本の関税化容認とは、どういうことなのか〉
      3. 〈ミニマムアクセス(最低輸入義務)というルール〉
      4. 〈農業の国内的動き(法律への注目)〉
      5. 〈農業の法整備①:新食糧法(食糧需給価格安定法)〉
      6. 〈農業の法整備②:食料・農業・農村基本法(新農業基本法)〉
  6. 【日本農業の時事】
      1. 〈戸別所得補償制度・農地バンク・スマート農業・6次産業化〉
  7. 保護か自由化か:日本農業を考える4つの判断軸

【日本の農業の現状①:農業人口と担い手の視点】

ここからは、まず現在の日本農業を数字で確認し、その後に「なぜこの状況になったのか」を歴史からたどります。

 

〈日本の農業人口〉

日本の人口は、2026年で約1億2千万人を下回るくらいになっています。

 

では、その中で農業に携わる人口(農業人口)はどれくらいなのでしょうか。

 

現在は、約175万人と言われています。これは、人口全体の約2%弱、就業者数全体の約3%とされています。

また、農家数や専業農家(農業だけで収入を得る農家)も減少傾向にあります。
(割合で見ると、専業農家が減少し、兼業農家(農業以外からも収入を得ている農家)が増加していますが、農業従事者自体は減少傾向が続いています。)

 

〈農業人口の高齢化(=若者の担い手の減少)〉

ちなみに、約175万人のうち、65歳以上(高齢者)の農業人口は約120万人と言われています。
ポイントは、65歳未満の農業人口が約55万人しかいないくらい、農業の高齢化が進んでいるという事実です。

はたして、このような状況で日本は農業に携わる人を増やしていく必要があるのでしょうか。

 

 

【日本の農業の視点②:「保護vs自由化」の対立」】

〈日本の食料自給率の特徴〉

日本の食料自給率(カロリーベース)は何%でしょうか。

2024年現在は、約38%と言われています。
ポイントは、2点です。
①この数値が他の先進国より低いということ(アメリカ:132%/フランス:125%など)
②残りの60%以上は他国からの輸入に頼っているということです。

 

〈日本農業の「保護」の視点(食料安全保障論)〉

この現状に対して、2つの考え方が登場しました。

1つは、食料自給率が低いのは良くないので、食料自給率を上げて自分達で食料を賄っていくことが大切だという発想です。この考え方を食料安全保障論と呼びます。
つまり、日本は農業を保護すべきという考え方が出てきました。

 

〈日本農業の「自由化」の視点〉

もう1つは、食料自給率は決して高めることだけにとらわれず、食料自給率が下がったとしても、もっと農業の流通や貿易を促進して競争原理を働かせてよいのではないかという発想です。
つまり、日本は農業を自由化すべきという考え方も出てきました。

 

「農業の保護vs農業の自由化」は、どちらが日本にとって都合が良いのでしょうか。

この疑問に対して、まずは歴史的視点から確認します。

 

 

【日本の農業の変遷①:農業基本法】

〈日本の戦後農業(農業基本法)の目標と目指すところ〉

日本の農業は、戦後から「一貫して保護していた」が、農産物の輸入自由化や国内流通の市場化も段階的に進めてきたのが特徴です。

前提は、農業基本法(1961年制定)です。

この法律では、2つの目標が設定されました。

①は農工間格差の改善です。
当時の日本は給料面などで農業よりも工業のほうが圧倒的に良く、農業と工業との間で格差がありました。
一般的に人々は給料が高いほうに流れていくので、工業に携わる人口も増加しました。(ペティ・クラークの法則のとおりです。)

▶ 高度経済成長期の日本や産業構造の転換について先に確認したい方はこちら(戦後日本経済史②:高度経済成長期戦後日本経済史③:安定成長~バブル崩壊)をご覧ください。

ただし、日本は農業も重要だと考え、農業だけで工業に負けないくらい十分に収入を得られる人達を育てようと考えました。
この発想が2つ目の目標である②自立経営農家の育成と呼ばれるものです。

 

日本は、「①農工間格差の改善」と「②自立経営農家の育成」という2つの目標の達成のために、国の補助金の注入などを行って機械化などを進め、生産効率の向上などを狙っていきました。

その結果、①について農工間格差は拡大し、②について農家は兼業が進みました。

 

なぜ、目標が達成できなかったのでしょうか。

 

〈なぜ兼業化が進み、自立経営農家の育成が難しかったのか〉

それは、時代背景が影響しています。

農業基本法が制定された1961年はどういう時代か、
と言えば高度経済成長期です。

実は、当時の日本の努力で農業も所得が増えていました。
しかし、高度経済成長期の中心は工業です。
そのため、農業の立て直しを図ろうとしても、結局は農業以上に工業の所得が増えてしまい、結果的に農工間格差が拡大してしまいました。
なので、農家の中からやはり収入が高い工業に携わる人も出てきたというわけです。

しかし、日本はまだ諦めていません。なんとか、自立経営農家を育てようと考えました。

 

では、この状況で、どうやって自立経営農家を育成すればよいのでしょうか。他に方法はあるのでしょうか。

 

【日本の農業の変遷②:食糧管理制度】

〈米価を政府が管理するという発想〉

この質問に対する、当時の日本の回答は「日本の食糧を日本政府が管理してしまう」です。ここでいう食糧はコメだと思って下さい。(食糧と食料は意味が異なります。食糧は主食を、食料は食品全てを指します。)

例えば、お米を生産者が100円で作り120円で販売して20円の利益が出るとします。(この時の販売価格120円を生産者米価と言います。)
一方で、経済状況などを理由に、生産者米価が90円まで下がらないと消費者がお米を買えないとした場合、この状況を放置しておくと、生産者はお米が売れず、消費者はお米が買えず、お互いにソンをします。
(この時の消費者が買う価格90円を消費者米価と呼びます。)

もし、生産者が90円まで価格を下げると、生産者の儲けが減って生産者がソンしてしまいますし、120円で販売すると消費者はお米を買うことができず消費者がソンになります。

 

そこで、この状況で生産者と消費者がお互いにソンをしない方法は、なにが考えられるのでしょうか。

 

〈食糧管理制度のしくみ〉

日本政府が出した結論は次の通りです。

まず、生産者が120円で販売して利益が出せるなら、政府が120円で生産者から買います。そして、消費者が90円でお米を買えるなら、政府が消費者に90円で売ります。そうすると、生産者も消費者もトクしますね。
つまり、政府が「生産者米価>消費者米価」の状況を作ってしまう、という結論を出したわけです。この制度のことを食糧管理制度と呼びます。

 

〈食糧管理制度によって起きた2つのこと〉

この制度によって、2つのことが起きました。

1つは、日本政府の赤字の拡大です。
政府が生産者から120円で買って、消費者に90円で売ったら、政府は30円の赤字ですね。でも、生産者と消費者がお互いにトクするならと、政府は常に30円の赤字を出し続けるという状態を維持していました。
その結果、日本政府の財政負担が大きくなったというわけです。

もう1つは、コメ余りです。
農家は消費者米価よりも高い価格で買ってもらえるならとお米をどんどん生産して、どんどん政府に販売するわけです。
ところが、消費者米価を安く設定しても、ある日突然急激に大量のお米の消費が増えるということは考えづらいです。
そのため、お米が生産過剰の状態になりました。

つまり、食糧管理制度で日本の農業の保護をしすぎたわけです。

 

では、生産過剰を解消し、日本政府の赤字の拡大とコメ余りの両方を解決できる、そんな方法はなにが考えられるでしょうか。

 

〈食糧管理制度に対する減反政策〉

この質問に対する日本政府が出した方法は、「コメを作るのをやめたり、コメ以外の作物を作ったりしたら農家に補助金を出す」です。
つまり、生産量の確保ではない別の方法で農業の保護を続けたということになります。このような政策を減反政策と呼びます。

 

このように日本の農業の変遷をたどると、混乱しながらも保護をベースに展開していたことがわかります。

 

はたして、「農業の保護vs農業の自由化」は、どちらが日本にとって都合が良いのでしょうか。

この質問について、現在の日本はどうするべきか、かなり揺れている状況にあります。

 

 

【日本農業の近年の動き】

近年の動きは、国際の視点と国内の視点の両方で見たほうがより多面的になります。

 

〈農業の国際的動き(GATTウルグアイラウンド)〉

まず、国際のポイントはGATTウルグアイラウンドの開始です。

GATTとは「貿易と関税に関する世界共通のルール」のこと、ラウンドとは「交渉」のこと(ボクシングなどのラウンド1だと思って下さい。)です。

つまり、ウルグアイで行われた貿易と関税に関する世界共通のルールの交渉をGATTウルグアイラウンドと呼びます。

この交渉の結果、コメの部分開放が行われ、日本は関税化を容認しました。
これは、どういうことなのでしょうか。

 

〈コメの部分開放・日本の関税化容認とは、どういうことなのか〉

例えば、世の中にはタイ米というものがあります。
日本米に比べて水分の含有量が少ないので、タイ米はチャーハンなどでよく使われますが、日常の食卓では日本米が多いんですね。

ところが、同じお米の量でタイ米が30円、日本米が100円だとした場合、それでも日本国内では日本米が買われ続けるのでしょうか。

経済の基本的なルールとして「安い方が需要が高い」ので、日本国内でタイ米が大量に流通する可能性があります。
そうすると日本国内で日本米が売れなくなり、日本の農家が苦しくなってしまうことが考えられます。

そこで、日本政府はタイ米30円の輸入に対して、仮に80円の関税をかけると、タイ米が日本に入ってくるときの価格が110円となり、日本米100円より高くなります。
つまり、「タイ米110円>日本米100円」となり、日本米のほうが安くなって日本米のほうが売れる可能性が高まり、結果的に日本の農家を守ることができます。
このように、他国の商品の輸入に対して税金をかけるという日本の動きを関税化容認と言います。

この話の最大のポイントは、「関税化の容認で日本の農家を守れてよかったね」ではなく、「関税化の容認をする前は輸入自体をしていなかった」です。

実は、当時の日本米の生産量は、日本国内の消費量に対して供給できていたため、あえて輸入する必要がありませんでした。輸入しなくても問題なければ強引に輸入する必要もないですね。
ただし、ある理由で日本はお米の供給量が少なくなってしまい、他国からお米を輸入しなければいけない状況となってしまったため、全面的に他国に頼るのではなく、少しだけ輸入をして不足分を補うこととしました。
このように、一部分だけ貿易を行うこと部分開放と呼びます。

ちなみに、なぜ部分開放をする必要があったのでしょうか。それは、当時の日本が冷夏でコメが不足してしまい、緊急で輸入する必要があったからです。

 

〈ミニマムアクセス(最低輸入義務)というルール〉

さらに、部分開放の際にGATTウルグアイラウンドではミニマムアクセス(最低輸入義務)を設定しました。

「ものすごい高関税をかければ結局輸入する必要はない」ということになると、輸入自体をしていない状態と同じになってしまいます。
そのため、輸入禁止の状態をなくすために最低輸入義務を設けています。

なお、現在もミニマムアクセスは一定の量で継続はしていますが、結果的にはお米の自由化が進んだとされています。

 

〈農業の国内的動き(法律への注目)〉

次に、国内のポイントは法律に注目することです。

 

〈農業の法整備①:新食糧法(食糧需給価格安定法)〉

日本は食糧管理制度を廃止して、新食糧法(食糧需給価格安定法)を制定しました。
これによって、農業の流通や価格の面で自由化が進みました。
農業でも競争が進むようになったわけです。
その結果、コメの価格を市場原理に任せたり、減反を生産者の判断に任せたりするなどの具体的な自由化が進みました。

 

〈農業の法整備②:食料・農業・農村基本法(新農業基本法)〉

また、GATTウルグアイラウンドの影響を受けて、農業基本法を改正し、食料・農業・農村基本法(新農業基本法)を制定し、食料の安定供給を目指すようになりました。
つまり、この法律によって農業の立て直しを図ろうとしました。さらに、農村の振興のために農村の多面的機能(自然環境の保全や景観の形成など)を活用することなども考えられました。

 

そして、農地法を改正し、農地の有効利用と企業の参入を促しました。

 

 

【日本農業の時事】

日本農業の時事をいくつか確認します。

 

〈戸別所得補償制度・農地バンク・スマート農業・6次産業化〉

まず、2010年に戸別所得補償制度が導入されました。
この制度によって、生産費>販売価格の場合に、差額を政府が補填してくれるようになりました。

また、2014年に農地バンクという組織が登場しました。
この組織によって、農地の貸付や耕作放棄地の再生などに関わるようになりました。

さらに、スマート農業と呼ばれる、先端技術を用いた農業も行われるようになりました。

近年では6次産業化の進展と呼ばれる、第1次産業と第2次産業と第3次産業の組み合わせの進展などにより、地元の農産物の活用や、農家の民泊、体験農園など、新しい形で農業が展開されています。

 

はたして、「農業の保護vs農業の自由化」は、どちらが日本にとって都合が良いのでしょうか。

 

 

保護か自由化か:日本農業を考える4つの判断軸

今までの議論は、以下の①~④の判断軸にまとめられます。

① 食料を安定して確保できるか
② 農業者が再生産できる所得を得られるか
③ 消費者が食料を入手できるか
④ 農地・環境・農村を維持できるか

はたして、「農業の保護vs農業の自由化」は、どちらが日本にとって都合が良いのでしょうか。

 

 

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