【選挙制度の2つの前提】
選挙制度には、大きく2つの前提があります。
1つは、「選挙の四原則」です。普通・平等・秘密・直接の四原則があります。
まず、財産や性別の関係がない選挙を普通選挙と呼びます。
(普通選挙の反対は制限選挙です。納税額や性別で選挙権を制限していたことを考えると分かりやすいです。)
また、一人一票で価値が平等な状態の選挙を平等選挙と呼びます。
(「この人はお金持ちだから3票持てる」みたいなことはあり得ません。)
さらに、無記名投票で、誰が誰に投票したか分からない状態の選挙を秘密選挙と呼びます。
そして、有権者が直接投票することができる選挙を直接選挙と呼びます。
(誰かに代理で投票してもらうということはありません。)
もう1つの前提は「公職選挙法にもとづく」という点です。
選挙に関する法律は公職選挙法という法律に1本かされており、選挙は全て公職選挙法が前提となっています。
また、選挙の運営は選挙管理委員会が担当します。
では、この選挙というしくみを工夫して、より民意を反映させる選挙の方法は、どのようなものが考えられるでしょうか。
【選挙制度の種類】
選挙制度の種類は、大きく3種類です。
1つめは「小選挙区制」です。
1つの選挙区から1人だけ当選するくらい小さいので小選挙区制です。
この制度だと、2位以下は全員落選となってしまうので、せっかく投票した票の大部分が死んでしまうと言われています。
そのため、小選挙区制は死票が多くなるとされています。
死票が多くなるということは、同時に民意の反映が不十分になる可能性があります。
(100人が住む町で、A・B・Cの3人が立候補したときに、小選挙区制でAさんが40票で当選した場合、残りの60票が死んでしまいます。このような例の場合、半分以上の意見が死んでしまうのですが、それは本当に良いのでしょうか。)
また、1人しか当選しないため、どうしても人気政党以外の当選が難しくなるという特徴もあげられます。
結果的に大きな政党が安定的に議席を確保しやすくなり、小選挙区制は二大政党制になりやすいと言われています。
さらに、大きな政党が力を持ち、選挙区の決め方に議員が口出しできるようになると、選挙区をどのように分けるかについて意見を述べ、自分が当選するように選挙区の分け方を変えてしまう可能性があります。これをゲリマンダーと呼び、区割に影響力を持つ議員が有利になってしまう懸念があるとされます。
2つめは「大選挙区制」です。
1つの選挙区から2人以上が当選するくらい大きいので大選挙区制です。
この制度だと、少ない人数の政党でも当選しやすいため、いろんな政党の候補者が当選することになります。
そのため、死票が少なくなり、小選挙区制よりも民意の反映が十分に行われやすいという特徴があります。
しかし、一方で政党が多過ぎて1つの政党が安定して運営できなくなる可能性があり、政局が不安定になるという特徴も抱えています。
3つめは「比例代表制」です。
得票数に比例して議席数を配分する制度で、少数意見が反映されると言われていますが、大選挙区と同様に政党が多過ぎて政局が不安定になるという特徴も抱えています。
なお、比例代表制は、ドント式という方式にもとづいています。
【日本の選挙制度】
日本は衆議院と参議院の二院制で、それぞれで制度を採用しています。
衆議院は、小選挙区比例代表並立制という制度を採用しています。
小選挙区制(定数289)と比例代表制(定数176)という2つの制度を組み合わせて合計475議席(2024年現在)を獲得しにいくので、小選挙区比例代表並立制です。
また、参議院は、選挙区制と比例代表制の組み合わせです。
選挙区制(定数148)と比例代表制(定数100)との合計248議席の獲得を目指します。なお、選挙区制は基本的に都道府県単位で選挙区が設けられています。
なお、参議院の比例代表制は非拘束名簿式だとされ、衆議院の比例代表制は拘束名簿式だとされます。
そのため、衆議院のみ小選挙区制と比例代表制の両方への重複立候補が可能だとされています。
(小選挙区で落選しても、比例代表で復活当選の可能性があることになります。)
一方、参議院議員選挙では、重複立候補が認められていません。
【※参考:拘束名簿式と非拘束名簿式とは】
比例代表制は、その政党の中で当選させたい候補者を順番に並べ、政党が獲得した投票数に応じて各政党の当選者数が決定するというしくみです。
では、当選させたい候補者の順番はどうやって決めればいいのでしょうか。
衆議院の場合は、政党で事前に候補者の順番を記載した名簿に従って当選者数を決めます。
このように、順番が事前に名簿に拘束されているため、拘束名簿式と呼びます。
一方、参議院の場合は、政党で事前に名簿を作ることはしません。
つまり、名簿には拘束されていないため、非拘束名簿式と呼びます。
では、参議院の当選順位はどうやって決めればいいのでしょうか。
答えは「有権者に決めてもらう」です。
実は、投票の際に衆議院の比例代表は政党名のみ記載できるのに対し、参議院の比例代表については、政党名と候補者名のどちらを書いてもOKとなっています。
つまり、候補者名のみの票数が多い人から順番に名簿が作成されていくことになります。
【選挙運動はどこまで認められるのか】
選挙へ立候補をすると、当選するために当然選挙運動を行うことになりますが、はたしてどこまでどのような活動を行なってよいのでしょうか。
選挙の公平性を期すために、制限されている選挙運動と禁止されている選挙運動の2種類があります。
制限されているのは選挙費用とポスターやビラの枚数です。(選挙費用や枚数は「これ以上はダメです」というルールがあります。)
また、禁止されているのは公示日や告示日より前の事前運動です。
なお、投票当日も選挙運動は禁止されています。つまり、選挙期間外は選挙運動をしてはいけないというわけです。
さらに、戸別訪問や金品提供なども禁止されています。
【選挙活動で違反したらどうなるのか】
もし、選挙運動などを含めた違反をした場合は、どうなるのでしょうか。
その場合は、当然ですが候補者の当選が無効となります。
では、候補者の関係者が選挙違反をした場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、候補者本人ではないにもかかわらず、候補者の当選も無効となります。この制度を連座制と言います。
【日本の選挙制度の課題(一票の格差)】
日本の選挙制度には、いくつかの課題があるとされています。その1つが「一票の格差」と呼ばれるものです。これについては、判例を確認します。
ある選挙を考えましょう。A町には5人が住んでいて、B市には100人が住んでいます。それぞれの町と市から1人ずつ当選者を選ぶとするとき、A町のほうが一票が重いのでは無いか?という議論です。つまり、A町が5人で1人当選だとしたら、B市は100人に対して20人当選するのが妥当では?という話です。この状況に対して、普通選挙(一人一票)の原則に対して違憲ではないのか、という議論が発生しました。
はたして、この状況は違憲であると言えるのでしょうか。
判例は、「違憲状態」でした。
違憲ではなく、違憲状態です。
違憲状態とは「違憲ではあるが、解消が難しい」という状態のことです。そこで裁判所は、2つのことを示しました。
1つは「格差の程度」です。1:3までの格差はOKとしました。
もう1つは「選挙のやり直しについて」です。選挙のやり直しについては、違憲状態ではあるが行わないとしています。
このような判決を「事情判決」と呼びます。
【公職選挙法と選挙制度の課題】
日本の選挙には、多くの課題があると言われています。
その1つが、投票率の低さです。
2024年現在では若干増加傾向にあるものの、特に若年層で依然として投票率が低い現状があります。
そこで、日本は2つの対策を行いました。
1つめの対策は、投票時間の延長です。昔は18時まででしたが、現在は20時までとなっているため、仕事終わりなどに投票しやすくなったと言われています。
2つめの対策は、不在者投票や期日前投票の充実です。
根本的に、選挙は自分の住民票がある地域で投票することになります。そうすると、住民票を移していない状態で引っ越した大学生や単身赴任をしている人などは、住民票のある地域に戻って投票することになります。そのため、わざわざ帰って投票するということも面倒になり、結局投票しないことが考えられます。そこで、住民票がない地域でも手続きを行えば投票できるという制度が作られました。この制度のことを不在者投票と言います。
また、昔は投票日のみしか投票できませんでしたが、現在は投票日より前に投票できるようになりました。この制度を期日前投票と言います。しかも、本来は投票日に投票するため、期日前の投票は厳しい条件がつけられそうですが、現在はレジャーなどの理由でも期日前投票ができるくらい、ゆるくなっています。これらのような制度の充実によって、投票率の低下を防ごうとしています。
課題のもう1つは、選挙事務の煩雑さです。
現在も紙を使ってアナログな投票を行っていますが、選挙は間違いが許されないため、紙の配布1つをとっても緊張が続きます。万が一ミスがあった場合には、大きな騒ぎになることは避けられません。
そこで、事務を簡略化し、よりスマートに投票できるように一部の地域で電子投票が行われるようになりました。これは、投票所に端末を設置し、その端末から投票できるという制度です。あくまでも現地に行くというのがポイントであり、自宅から投票できるという制度ではないことに注意が必要です。
ただし、現状で電子投票を導入している自治体は少ないです。なぜでしょう。
各自治体で電子投票の導入が進まない大きなポイントは2つです。
1つは、端末操作が難しいと感じる人が出てくる懸念です。
もう1つは機械トラブルの不安です。投票所に行って端末が故障しました、といった場合にどうやって選挙権を保証するのか、という懸念が生まれてしまいます。そのため、現在も導入が少ない状況が続いています。
このように考えていくと、選挙の課題は多く、解決の難しさが感じられます。
【「日本に住む外国人」や「海外に住む日本人」に選挙権はあるのか】
「日本に住む外国人」や「海外に住む日本人」に選挙権はあるのでしょうか。
日本に住む外国人を定住外国人と言いますが、現状は定住外国人の参政権は認められていません。
なお、最高裁判所は「地方選挙では定住外国人の参政権を与えてもよいのではないか」という見解を示していますが、実際に外国人参政権を認める法律がないため、結局定住外国人の参政権は認められていません。
また、外国に住む日本人を在外邦人と言いますが、現状は在外邦人の参政権は全面的に認められています。
(過去は、衆参の比例代表のみOKとなっていましたが、最高裁判所で違憲判決が出たため、全面的にOKとなりました。)
【※参考:日本の選挙権の歴史】
日本の選挙権は、制限選挙→男子普通選挙→完全普通選挙の順で拡大していきました。
ちなみに、選挙権で制限される要素は年齢・性別・納税額の3つです。
最初は、1889年の「25歳以上の男子/直接国税15円以上」でした。
また、1900年に「直接国税10円以上」、1919年に「直接国税3円以上」と納税額が減っていきましたが、「25歳以上の男子」が条件であることは変わりませんでした。
そして、1925年に普通選挙法が成立し、選挙権(投票)の条件が「25歳以上の男子」のみで、納税の条件がなくなりました。
その後、1945年に「20歳以上の男女」まで拡大され、完全普通選挙が実現しました。初めての女性参政権は1945年ということになります。
なお、2015年に「18歳以上の男女」まで選挙権が拡大し、現在も続いています。
つまり、「25歳以上の男女/直接国税15円以上→10円以上→3円以上→なし」→「20歳以上の男女」→「18「歳以上の男女」と選挙権が拡大していきました。
また、被選挙権(立候補できる権利)について、戦前は30歳以上の男子でしたが、戦後は25歳以上の男女となりました。
そのため、現在は25歳以上の男女が立候補の基本ですが、参議院議員と都道府県知事は30歳以上というルールがあります。