1-5. 政治を考える時の3つの大前提は?(国民主権・議会制民主主義・多数決と権力分立・選挙の歴史)

政治とは、「物事の優先順位を決めること」です。

▶ このページから読んだ方へ:まず「政治って何?」と民主政治の全体像をつかみたい方はこちら(政治ってなに?「物事の優先順位を決めること」から分かる民主政治のしくみ)をご覧ください。

 

そして、現在の様々な国において、物事の優先順位を決めるときに欠かせない3つの大前提があります。

それらを
①国民主権
②議会制民主主義
③多数決原理と権力分立
と呼びます。

この3つのしくみをおさえると、「なぜ選挙で一票を投じるのか」「多数決だけでは危ないのはなぜか」といった疑問が、かなりスッキリ整理できます。

この記事では、
・国民主権と参政権(制限選挙→普通選挙)
・議会制民主主義(直接民主制との違い)
・多数決原理の問題点と権力分立(三権分立)
を、流れに沿って解説しています。

 

【国民主権 : 国民が政治の主人公であるという考え方】

リンカーンの言葉でイメージする国民主権

民主政治は「基本的人権の尊重と国民主権に基づく」とされています。
リンカンは「人民の、人民による、人民のための政治」と表現しました。)それくらい、政治には国民主権が重要であるということです。

 

では、もし政治で国民主権を実現していくとしたら、どのような方法が考えられるのでしょうか。

 

現状、政治で国民主権を実現する方法の1つが「参政権の保障」です。

つまり、国民が選挙を通して政治に参加することで、議員に国民主権を実現させてもらうように働きかけていこうという話です。参政権の保障は国民の権利の実現のためにとても重要だと言われていますが、

 

なぜ、参政権の保障がそんなにも重要なのでしょうか。

 

それは、どの国も昔は選挙制度が制限選挙だったからです。

 

制限選挙とは何か(なぜ参政権が大事か)

制限選挙とは、選挙で投票する権利を持っている人に条件がついていることを指します。(昔の日本は、「直接国税15円以上を納めた男性のみ」などの制限がありました。)

つまり、投票できる人に制限がかかっていたので制限選挙です。

ただし、それだと一部の人しか政治に参加せず、一部の人の主権を保障するだけになってしまい、本当の国民主権とは言えません。

 

普通選挙の実現とチャーティスト運動

そこで、制限選挙を辞めて制限をなくす形の普通の選挙を実施しようとしました。これを普通選挙と呼びます。
制限をなくすことで、本当の国民主権が実現できると考えられています。

 

つまり、参政権の保障のために世界各国は選挙制度を「(制限ありの)限選挙から(制限なしの)普通選挙に移行させた」ということになります。

 

ちなみに、制限選挙から普通選挙に移行するきっかけとして有名なのは、イギリスのチャーティスト運動だとされます。(チャーティスト運動と呼ばれる運動で普通選挙の実現につながりました。)

▶ 参政権を「自由権→参政権→社会権」の流れから確認したい方はこちら(市民革命後、人々は国に何を求めたのか?(自由権・参政権・社会権と法律の3つの前提))をご覧ください。

 

 

【議会制民主主義 : 間接民主制としての“代表に任せる”しくみ】

直接民主制と間接民主制のちがい

議会制民主主義とは、「間接民主制」のことだと思ってください。世の中で物事を決めるときの基本原理です。

ちなみに、対義語を「直接民主制」と呼びます。
直接民主制は「物事を自分たちで直接決める」ので直接民主制です。
そのため、物事を決めるのに全員参加になります。

間接民主制は「物事を決めるのに誰かが間に入る」ので間接民主制です。
そのため、物事を決めるのに代表者の参加になります。
この代表者が集まる場所が議会なので、議会制民主主義です。

 

なぜ現代は議会制民主主義(間接民主制)が基本なのか

本来、直接民主制(全員参加)が、人々の意見を反映させるという意味では理想的です。
人口が数人程度であれば直接民主制も可能でしょう。ただし、人口が多い国や地域では全員参加の直接民主制が現実的ではありません。
そのため、自分の意見を代弁してくれる代表者を「議会」という場所に集めて話し合うしくみが整えられ、その仕組みを議会制民主主義と呼ぶわけです。

 

では、代表者が集まる議会で物事を決めるとき、どのようなルールで決定するのがよいのでしょうか。
ここで出てくるのが「多数決原理」です。

 

 

【多数決原理と権力分立 : 多数の暴走をどう防ぐか】

複数人で物事を決定する時の基本は「多数決」です。
「多数決」には、手早く結論を出せる・より多くの人の意見を反映できるなど、いくつかのメリットがあります。

ところが、多数決にはいくつかの問題点もあります。それはなんでしょうか。

 

多数決の問題点① … 少数意見が排除される

多数決の問題点の1つは、「少数意見が排除される」ことです。
当たり前といえば当たり前ですが、その分、多数決の裏ではやはり少数意見の尊重が必要になります。

ただし、少数意見の尊重が分かっていてもそんな簡単にできないかもしれない、という懸念もあります。

以下の例を考えましょう。

[例]
ある物事について100人で「AとBのどちらの意見がよいか」という多数決をとったとします。その結果、51vs49でAの意見が採用されました。

この例の場合、ほとんど差がない状態ですが、はたしてこの多数決は認めてよいのでしょうか。また、どのように少数意見を尊重していくのがよいのでしょうか。

さらに、このような場合はどう考えるべきなのでしょうか。
[例]
ある物事について100人で「AとBとCの3つのうち、どの意見がよいか」という多数決をとったとします。その結果、40vs35vs25でAの意見が採用されました。

このような例は、過半数に達していませんが多数決としてより多くの人々の意見を尊重していると言えるのでしょうか。
また、少数意見を尊重するとしたら、どのような方法が考えられるのでしょうか。

2つの例を考えても分かりますが、多数決といっても、簡単に決めてよいのか、また、少数意見の尊重が簡単にできるのかなど、様々な問題が考えられます。

そのため、多数決の際は、相当な議論の上での多数決が必要になると言われています。(実際に、教育の世界では多数決は最後の手段とも言われ、多数決までにどれだけ議論できたかに焦点があてられることが多いとされます。)

 

多数決の問題点② … 大衆民主主義と権力集中の危機

また、多数決の問題点のもう1つは、「よくわからない意見に支配される可能性がある」ことです。

多数決の際に、様々な情報を全員が持っていて、全員が真剣に相当な時間をかけて話しあえば、多数決でもある程度納得のいく方向性が見えるかもしれません。

しかし、政治の世界などでは物事をよく調べず、なんとなくで立候補者に投票する人も多くいるわけです。
そのため、なんとなくで投票するような人達のほうを向いた政治を行うと、議会が知識を持たない人達に支配されてしまう可能性が考えられます。

知識を持たない労働者や農民などの集まりを大衆と呼びますが、大衆が知識を持たずに投票する政治の状況を大衆民主主義と呼びます。
そして、大衆民主主義が進むと、大衆の支持を一気に得て独裁政治が進んでしまうということも否定できません。

「大衆民主主義から独裁が生まれるのか?」という疑問を抱くかもしれませんが、多くの大衆がある政党やリーダーを支持して成立した政治体制をファシズムと呼びます。(ドイツのヒトラーなどはファシズムの代表的な人物です。)

ただし、独裁政治を行なってしまうと、また絶対王政のように王様に苦しめられる人々が出てきてしまうかもしれません。そこで、安易にファシズムにならないように対策が必要となります。

 

そこで考えられたのが権力分立です。

 

権力分立とチェック&バランス(三権分立)

ファシズムの大きな問題は権力が集中している状態だということです。(権力が集中しているからこそ、独裁として振る舞えているわけでもあります。)

だとしたら、権力については、独裁のように権力を1つに集中させるのではなく、権力を複数に分けあい、お互いの権力がお互いに抑制し合い、それぞれの権力が偏ることなくバランスをとる状況が必要になるはずです。
この状況を「チェック&バランス(抑制と均衡」と表現します。

つまり、権力を分けて「抑制(チェック)」と「均衡(バランス)」することが重要だというわけです。

この考え方を具体化した有名人がモンテスキューという人であり、
この人が法の精神という著書で立法行政司法」の3つに権力を分けるべきであるとする三権分立という考え方を示しています。
(日本も立法・行政・司法の三権に分立しています。)

なお、社会契約説のロックはモンテスキューと同じように権力を分けるべきだとしていましたが、権力は「立法権と執行権の2つに分け、立法権を優先すべきである」としました。(モンテスキューは三権とも同じバランスの扱いだと考えています。)

▶ ロックの「立法権優位」や抵抗権まで含めて整理したい方はこちら(「話し合い」で本当に意見はまとまるのか?ホッブズ・ロック・ルソーの社会契約説を一気に整理)をご覧ください。

 

はたして、物事(意見)を決定するのに、最も良い方法はなんなのでしょうか。
また、話し合いに参加する人々が最も意識すべきことはなんなのでしょうか。

 

 

【※参考:日本の選挙権の歴史】

ここからは補足として、日本の選挙権がどのように拡大してきたのかを、年表形式で確認しておきます。

 

日本の選挙権は、制限選挙→男子普通選挙→完全普通選挙の順で拡大していきました。

ちなみに、選挙権で制限される要素は年齢・性別・納税額の3つです。

 

制限選挙の時代(25歳以上の男子+納税要件)

最初は、1889年の「25歳以上の男子/直接国税15円以上」でした。
また、1900年に「直接国税10円以上」、1919年に「直接国税3円以上」と納税額が減っていきましたが、「25歳以上の男子」が条件であることは変わりませんでした。

 

1925年男子普通選挙と1945年女性参政権

そして、1925年に普通選挙法が成立し、選挙権(投票)の条件が「25歳以上の男子」のみで、納税の条件がなくなりました。

その後、1945年に「20歳以上の男女」まで拡大され、完全普通選挙が実現しました。
初めての女性参政権は1945年ということになります。

 

18歳選挙権への拡大

なお、2015年に「18歳以上の男女」まで選挙権が拡大し、現在も続いています。

 

つまり、「25歳以上の男女/直接国税15円以上→10円以上→3円以上→なし」→「20歳以上の男女」→「18「歳以上の男女」と選挙権が拡大していきました。

 

【あわせて読みたい

 

【※参考:内容のまとめ】

〈① 国民主権と参政権〉
・ 政治の最終的な決定権は国民にある(国民主権)
・制限選挙から普通選挙への移行は、国民主権を実現するための大きな流れだった

〈② 議会制民主主義(間接民主制)〉
・ 人口の多い現代国家では、全員が直接集まって決めることは難しい
・ 代表者を選び、その代表が集まる議会で物事を決める=議会制民主主義(間接民主制)

〈③ 多数決原理と権力分立〉
・ 多数決は便利だが、少数意見の排除や情報不足による「大衆民主主義」の危険もある
・ 権力が一カ所に集中すると、ファシズムのような独裁が生まれやすい
・ そこで権力を立法・行政・司法に分け、お互いに「チェック&バランス(抑制と均衡)」をはかる(三権分立)

⇒ 国民主権・議会制民主主義・多数決原理と権力分立のセットが、現代の民主政治の土台になっています。

 

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