社会保障の考え方に「自助」「共助」「公助」と呼ばれるものがあります。
これらは、防災などでも使う言葉になってきました。
自助とは「自分でなんとかする」こと、共助とは「みんなで税金を出し合って、お互いに助け合う」こと(年金や医療など)、公助は「完全に国が支援する」ことを指します。
共助は保険料を出し合う医療や年金などを、公助は生活保護を考えましょう。
では、現在の日本の社会保障は「自助」と「共助や公助」のどちらの考え方のほうが大切なのでしょうか。
【世界の社会保障について】
日本以外の国の社会保障はどうなっているのでしょうか。日本を考えるための材料として、世界の社会保障を確認します。
なお、世界の社会保障は「世界初」の内容が重要なため、世界の社会保障の歴史に注目します。
まず、イギリスでエリザベス1世によるエリザベス救貧法が制定されました。
これは、働けない人に生活保護を与え、働ける人には強引に仕事を与えることで福祉を充実させていく仕組みで、世界初の公的扶助と呼ばれます。つまり、生活保護は救貧法と呼ばれるくらいなので救貧(貧乏を救う)の視点が入ってきます。
次に、ドイツでプロイセン首相ビスマルクの「アメとムチ」政策が行われました。
これは社会保険を充実させる(アメ)代わりに社会主義者鎮圧法などを制定(ムチ)したもので、世界初の社会保険と呼ばれます。社会保険には事前に制度を用意しておくことで、生活保護になることを防ぐという防貧の視点が入ってきます。
そして、世界恐慌をきっかけにアメリカでローズヴェルト大統領によるニューディール政策の一環として連邦社会保障法が制定されました。
さらに、イギリスでベバリッジという人によるベバリッジ報告が出されました。
この報告の中には「ゆりかごから墓場まで」という言葉が記載され、「生活保護だけは無くすな」という強いメッセージが記されています。生存権を強調するということもあって、ベバリッジ報告は初の生存権の具体化とも言われます。
加えて、ILOという組織がフィラデルフィア宣言を出しました。これは社会保障の国際的原則だとされています。
このように、社会保障は多種多様な考え方が存在します。
ちなみに、自助と共助・公助はそれぞれ何が問題なのでしょうか。
自助の問題点として、低所得者の医療や介護の利用が難しくなること、失業者やホームレスなどの救済が困難になることなどがあげられています。
一方で、共助・公助の問題点として、増税による国民の負担が増えること(国の財政破綻)の懸念、共助と公助に依存してしまって自立が難しくなるおそれなどがあげられます。特に、財政に注目すると、近年は2025年問題が取り上げられるようになりました。これは、2025年に人口構造の大きな変化(=団塊の世代が後期高齢者になること)によって社会問題の噴出が考えられていることを指します。そのため、自助と共助・公助は真剣に考えるテーマとなってしまいました。
はたして、「自助」と「共助・公助」のどちらが日本の社会保障にとって良いのでしょうか。
ここでは、社会保障と財政に注目して考えます。
【社会保険制度の課題】
社会保険制度を考える際は、「少子高齢化が前提である」ことを念頭に置く必要があります。
簡単に言うと「社会保障を支えることが難しい」という話です。
それは、日本が急激な速度で高齢化が進行しており、高齢化に伴う社会保障関係費用が増加していること、少子化に伴い、働いて税金を納める中心である15歳~64歳の人口が減少し、税収の安定的な確保が難しいことなどが要因として考えられます。
つまり、税金という収入は少ないのに、社会保障という支出は多いという状況によって財政が非常に苦しくなるため、少子高齢化の進行によって社会保障を支えることが難しくなっていると言われています。
そこで、日本は社会保険について様々な制度の検討を行いました。
1つは、年金制度改革です。
日本では基礎年金制度を導入し、20歳以上60歳未満を全員加入としました。基礎の年金を導入することで、なんとか年金制度の維持を目指すことをしています。
なお、年金制度は基礎年金(国民年金)とは別に厚生年金と呼ばれるものもあります。つまり、自営業者などは国民年金のみに加入する形となりますが、サラリーマンや公務員は国民年金と厚生年金の両方に加入することになります。
また、既存だと年金制度が破綻するため、年金制度改革関連法を制定して給付額削減などを行っています。
さらに財源を変化させることにも着手しています。昔は、自分の払ったお金がそのまま年金となる積立方式を採用していましたが、現在は、人々が払った保険料をそのまま高齢者へ流す賦課方式を増大させています。
そして、近年は物価上昇が著しいため、物価上昇に合わせて年金給付額も上げるしくみを採用しています。これを、年金の物価スライド制と言います。
もう1つは、後期高齢者医療制度の導入です。7
5歳以上を後期高齢者と呼び、医療費の1割負担と保険料を納付する制度です。(令和4年10月1日から医療費の負担が2割になりました。)この制度のポイントは、医療費は本来3割負担だから後期高齢者になったら医療費が安くなって良かった!という話ではなく、昔は、後期高齢者は医療費が無料だったので後期高齢者にも保険料を求めないといけないほど財政難の状況だということです。
そして、介護保険制度の実施の導入も注目です。
この制度は市町村が運営主体となって40歳以上から保険料を徴収するのですが、実際に65歳未満で介護保険の適用になる人はかなり少ないです。基本は65歳以上から使うことが多くなり、要介護認定と呼ばれる介護保険の適用の程度の判断も難しく、40歳以上くらいから保険料を徴収しないといけないくらい財政が苦しいということです。
このように、社会保障関係において日本財政は苦しい現状がありますが、それでも社会保障に関係する費用は増やすべきでしょうか(共助・公助)それとも、減らすべきでしょうか(自助)。
ちなみに、現状は日本の年間予算約101兆円に対して約34兆円が社会保障関係費として使われています。
このような状況で、社会保障と福祉はどうあるべきなのでしょうか。
【福祉社会の実現に向けた考え方】
財源ばかりに注目せず、福祉のほうに目を向けることも大切でしょう。福祉を行うにあたって忘れてはいけない視点はいくつかあります。
例えば、きめ細かい福祉サービスの充実などは十分に考えられます。
近年は、障害者の就労支援雇用などが進むなど、福祉も多様化してきていると言われます。
また、ノーマライゼーションと呼ばれる、高齢者や障害者が健常者同様に暮らせる社会つくりも注目されています。
さらに、バリアフリーと呼ばれる、物的な障害物の除去なども進んでいます。
多目的トイレなどはバリアフリーを具現化しています。
そして、ユニバーサルデザインと呼ばれる、万人に使いやすく作られた製品も増えてきました。
目が見えない人がシャンプーとリンスのボトルの違いを触って分かるように工夫したり、視覚的に見やすい文字を自治体のパンフレットで使用したりする例は増えてきています。
なお、近年は地域包括ケアシステムと呼ばれる、介護・医療・住居・生活支援を一体的に提供する拠点の構築も検討され、財源が少ないながらも福祉の充実を目指す動きが出てきています。
一方で政府は、高齢者の社会保障のみに注目するなどのような、一部の人達だけを対象とせず、全世代型の社会保障を実現させることを目指しています。
さらに、十分な収入の獲得が困難な人に対して、最低限の生活を送ることができるよう、生活保護を中心とする様々な社会保障制度を活用した社会的な安全策であるセーフティーネットの充実も目指しています。(もともとセーフティーネットは、サーカスなどで落下したときの安全確保のためのネットを指しますが、転じて最低限の社会保障で生活を守るというようになっています。)
このような様々な考え方や課題がある中で、今後の日本の社会保障はどうあるべきでしょうか。