4-2. より多くの人が幸せになるための経済社会のしくみとは(3つの経済システムについて)

家賃や食費など、全てを含めた一人暮らしの月のだいたいの最低生活費はどれくらいでしょうか。

 

住む地域などによっても違うので、一概には言えませんが、およそで10万円程度と言われています。

この数字を前提に、次の状況を考えましょう。

[状況の検討]
ある町があり、その町には町長、A、B、C、Dの5人が住んでいるとします。5人のある月の給料は、町長が50万円で、A、B、C、Dの4人が0円でした。このとき、町長の立場だとしたら、A・B・C・Dの4人を助けますか、それともほっときますか。

この状況の場合、多くの人は町長であるという立場も踏まえて助ける側を選択することが予想されるので、逆の立場を先に把握するために、ほっとく側の主張から確認します。

 

【資本主義の考え方】

先ほどの状況で、ほっとく側の考え方を「資本主義」と呼びます。

また、資本主義を提唱した人をアダム・スミスと呼びます。(主著:『国富論』)

 

なぜアダム・スミスは、ほっとくべきだと考えられるのでしょうか。

それは、ほっといてもどうせなんとかなるからです。

もしかしたらA~Dの4人はたまたまその月の給料がゼロだったのかもしれません。
実は、全く関係ない別の町の人達が助けてくれるかもしれません。

このような様々な可能性を考えると、結果としてアダム・スミスは、ほっとていも最終的には、我々の目には見えない神様の手によって助けてくれると考えました。
これを「(神の)見えざる手」と表現します。

そのため、アダム・スミスはほっとく考え方を自由放任主義(レッセフェール)と呼んで、極力政府は関わらないべきだとしています。
(政府がなるべく関わらないべきだとする発想を「小さな政府」と表現しました。)

ただし、小さな政府で極力関わらない中でも政府がやるべきだとしたことが2つありました。
それが「国防」と「司法」です。
この2つに関しては小さな政府だとしても国がやるべきだとしました。

なお、アダム・スミスの考え方をラッサ―ルという人が(警備くらいしかしてくれない国家という皮肉で)「夜警国家」という言葉で批判しています。

 

このように考えると、助けずにほっといてもいいような気もします。
(実際に、多くの国は資本主義を採用しています。)

 

やはり、先ほどの事例はほっとくべきでしょうか、それとも助けるべきでしょうか。

 

【社会主義の考え方】

町長という立場だったり、その月の収入がゼロであるという事実を知ってしまったりすると、なかなかほっとくという判断をすることは難しいかもしれません。

そのため、助けるという発想も考えられるでしょう。

では、もし助ける側の主張を採用する場合、具体的にどうやってA・B・C・Dの4人を助けるのでしょうか。

 

そこで、資本主義に対抗した助ける側の主張を「社会主義」と呼びます。

なお、社会主義を提唱した人をマルクスと呼びます。(主著:資本論

 

マルクスという人は「人々が働くこと」に注目しました。

しかし、資本主義という世界では、労働者が本来もらうべき給料の一部を資本家が持って行ってしまっているため、労働者は資本家に搾取されていると考え、労働者の労働という視点から資本主義を批判しました。
(批判できるくらい資本主義に注目したので、『資本論』ですね。)

そこでマルクスは、搾取されている社会の仕組みに注目して、全員が平等になるように国が経済を調節していくのがよいのではないかと考えました。
この考え方による経済を社会主義経済と呼びました。

なお、国が経済を調整する場合は行き当たりばったりでは国民が困るので、国が計画的に経済を調整することになります。
そのため、社会主義経済の考え方を計画経済とも呼びます。

 

先ほどの例で行けば、町長とA~Dの5人全員が10万円ずつ平等に受け取り、合計50万円となるように調整すれば、一人暮らしの最低生活費と10万円と仮定した場合に全員最低限ではありますが生活できます。

ただし、社会主義には当然デメリットも考えられます。

今回の事例の場合、A~Dが0円になってしまった理由は、A~Dの努力不足という発想もあります。(資本主義は、まさしくこの発想で、その月の収入の減少は自己責任だと考えます。)

そのため、社会主義という仕組みを採用すると「どうせ国が調整してくれるから」と努力しない人が出てくる可能性もあるというデメリットが生まれます。

さらに、努力しない人が社会主義で救われ、努力した人が社会主義で報われないという可能性が考えられるため、人々のやる気を奪ってしまうかもしれないという意味では社会主義の難しさもあります。
(実際、多くの国は社会主義というシステムをやめて、資本主義を採用しています。)

 

では、町長・A・B・C・Dの5人全員が納得できる最良の方法はなんでしょうか。

 

【修正資本主義(混合経済)の考え方】

資本主義も社会主義にも、それぞれメリットとデメリットがあります。
だとしたら、資本主義と社会主義のそれぞれのおいしいところ取りをするのが良いのではないか、という考えが出てきました。

このような考え方を、資本主義を社会主義の仕組みに少し修正するという意味で「修正資本主義」と呼びます。(修正資本主義は、資本主義と社会主義を混ぜ合わせるという意味で「混合経済」とも呼ばれます。)

また、修正資本主義を提唱した人をケインズと呼びます。(主著:『雇用・利子及び貨幣の一般理論』)

 

ケインズは、資本主義でみんなが競争しながら成長していくことの良さも踏まえつつ、資本主義のように小さな政府としてほっとくのではなく、政府が積極的に介入することで、競争になじまない人達も救えるようになり、より人々の幸福度が高まるのではないかと考えました。
(そのため、ケインズの考え方を「大きな政府」と呼ぶこともあります。)

その際、ケインズは有効需要(買いたい気持ちが伴っている需要)を実現することが幸せにつながると考えました。
そのため、町長もA~Dの4人もお金を使うように分配するのが良いのでは?となりました。
(アダム・スミスは「ほっといても勝手に調整される」という考え方が前提のため、むしろたくさん商品を作ればその分売れると考え、供給を重視しました。)

〈※参考:有効需要とは?〉
経済の世界では、基本となる重要な前提があります。
それは「同じ商品であるならば人は安いほうを買いたくなる」という前提です。
また、経済学では人々の買いたい気持ちを需要と言いますが、安い商品のほうが需要が高くなるという話です。
例えば、ある商品が300円で売っていた場合、200円にすることで、需要が高まることが予想されます。
ただし、それは人々が200円で買えればの話です。
仮に、ある人が150円しか持っていない場合、値段を200円にして需要が高まったとしても、その商品を買えないのであれば、需要としては意味がないのでは?という考えがあります。
つまり、人々が実際に買うことができるような需要であれば、需要として意味があるのでは?という発想があるわけです。
このような、人々が実際に買うことができて買いたい気持ちが伴っている需要を有効需要と呼びます。

今回の事例でいけば、ケインズは町長がA~Dの4人より少し多くなるように分配するのかよいのではないか、という発想だと考えられます。
(そうすると、A~Dが多少救われつつ、町長の努力も金銭という形で反映されます。)

 

この考え方を採用すれば、資本主義と社会主義のそれぞれのメリットだけを受けられて良いように感じます。
しかし、修正資本主義には1つ大きなデメリットがあります。

それは、「大きな政府のために、政府がたくさんのお金を用意して使う必要がある」ということです。

資本主義の場合は、ほっとくのが基本なので政府が一生懸命努力する場面が少ないです。
ところが、修正資本主義の場合は政府の頑張りが必要なので、必然的に政府が資金を準備する必要があります。
ちなみに、政府がお金を集める基本は税金です。
つまり、ケインズの修正資本主義を充実させようとすると、場合によっては増税によって人々が苦しくなる可能性も考えられるというわけです。

そのため、修正資本主義とは違う、新たな考え方も登場してきています。

 

はたして、資本主義、社会主義、修正資本主義の3つの考え方のうち、最も良いと思われる考え方はどれでしょうか。

 

【現状の経済のシステムの考え方】

現在では、小さな政府を目指す新自由主義が台頭してきています。(フリードマンという人が提唱しました。)

特にフリードマンは「政府は貨幣供給量のみを調整するべきだ」と考え、マネタリズムと呼ばれるようになりました。

この考え方に影響を受けたのがアメリカのレーガンやイギリスのサッチャーや日本の中曾根康弘という人達です。
(新自由主義:修正資本主義から資本主義へ向かう、2度目の資本主義のこと。)

そして、経済の世界においてグローバリゼーションが拡大しています。
そのため、日本の経済システムはグローバル化が進む現在で他国と関係することを前提に考えていく必要があります。

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