2-13. 「平和」のために、今後の日本はなにをしていくのか(「平和」の今後を考える)

日本は、平和維持のために「何をどこまでできるか」を細かく決めたルールがたくさんあります。

有事のときに自衛隊がどう動けるのか。
海外での活動はどこまで許されるのか。
そして、日米安保と米軍基地をどう位置づけるのか。

この記事では、憲法と現実の安全保障の関係を踏まえながら、日本の平和に関する様々な論点を考えます。

▶ 「9条・自衛隊・日米安保」の基礎を先に確認したい方はこちら(日本はどうやって「平和」を維持している?(日本の平和主義/自衛隊/日米安保/判例を一気に整理))をご覧ください。

【有事法制について:自衛隊が動ける範囲を決めるルール】

有事法制とは何か(自分の危険への対処ルール)

自衛隊の活動は目を見張るものがありますが、そんな自衛隊はどこまで活動してよいでしょうか。

国内のみで活動をとどめるべきでしょうか、それとも日本の周辺まで活動すべきでしょうか、または世界どこでも活動してOKとすべきでしょうか。

 

この質問に対して考えられているのが「有事法制」です。
有事法制とは、「自分の身の危険についてどのように対処するか」を考えたものです。
つまり、「日本の危険についての対処」を考えたものが有事法制だと思ってください。

 

自衛隊の活動範囲が広がってきた流れ(周辺事態→地理的制限の緩和)

日本の場合、もともとは「有事法制」というくらいなので、自衛隊は日本に危険が生じた場合に対処するというのが前提でした。

ところが、世界情勢などを踏まえていく中で、
有事法制の範囲は「日米安保共同宣言」と呼ばれるものでアジア太平洋地域に拡大しました。

また、ガイドライン関連法という法律によって、自衛隊は「有事の場合のみ対応」だったものが「周辺事態(日本の周辺地域)までOK」となりました。
(ガイドライン関連法の中心になる法律を周辺事態法と呼びます。)

なお、周辺事態のルールは2015年に撤廃され、地理的制限がなくなりました。
(その際の根拠となった法律が、重要影響事態法と呼ばれるものでした。重要影響事態とは「日本の平和が脅かされる事態」を指します。)

 

有事法制関連3法と7法の役割の違い

また、有事法制については具体的に法律として規定されています。

1つは、有事法制関連3法です。
これは有事の際の基本方針を示しています。

また、もう1つは、有事法制関連7法です。
これは有事の際の具体的な動きを示しています。

 

 

【自衛隊の海外派遣について:PKOを土台に、何が可能になったのか?】

先ほどの項目で見たように、自衛隊の活動範囲について地理的制限は撤廃されましたが、どのような内容で活動してもよいのでしょうか。

テロの対処、戦争の対処、海賊の対処、世界の平和が脅かされる事態についての対処など、どこまで活動してよいのでしょうか。
(なお、自衛隊は派遣であり、「派兵」ではないので注意しましょう。)

また、前提としてPKO協力法という法律があり、PKOに協力する際のルールが決められています。

では、具体的に自衛隊の活動内容は、どのような内容までOKなのでしょうか。

 

テロ/戦争/海賊/国際平和支援の4類型による整理

まず、テロの対処については「テロ対策特別措置法」が規定されているので、テロの対処は可能です。

また、戦争の対処については「イラク復興支援特別措置法」が規定されているので、戦争の対処も可能です。

さらに、海賊の対処については「海賊対処法」が規定されているので、海賊の対処も可能です。

そして、安全保障関連法を皮切りに「国際平和支援法」が成立し、後方支援が随時可能となりました。

つまり、自衛隊は「テロ/戦争/海賊/世界平和」と、かなりの部分で派遣できるという話です。

 

 

【※参考:テロ対策特別措置法とイラク復興支援特別措置法の具体的内容について】

テロ特措法:制定・失効・復活・再失効の流れ

テロ対策特別措置法は、海上自衛隊のアメリカとイギリスの後方支援を認めた法律になります。
この法律はアメリカ同時多発テロの発生した2001年に制定されましたが、2007年に失効しています。
また、2008年に新テロ特措法として復活していますが、結局2010年に失効しました。

 

イラク特措法:派遣の内容と違憲判断

また、イラク復興支援特別措置法は、2003年に陸上自衛隊と航空自衛隊の派遣を認めています。
しかし、この法律については2008年に名古屋高等裁判所が違憲判決を出しており、実際に2009年に自衛隊は撤収をしています。

 

 

【日米安保体制と米軍基地:砂川事件から考える】

砂川事件の構図(基地反対運動→9条違反の主張)

米軍基地については、判例を確認します。

[判例:砂川事件

在日米軍基地の拡大に反対する人たちが柵を破壊し、基地内に入って訴えられました。その際、在日米軍の反対派は「在日米軍は憲法9条違反に該当する!」として対抗しました。

はたして、在日米軍は憲法9条違反に該当するのでしょうか。

 

砂川事件の判決(統治行為論・安全保障と司法の距離)

判決は、在日米軍に対して「統治行為論」が出されました。

統治行為論とは「高度に政治的な内容については、違憲審査の対象にならない(=司法での判断を回避する)」という考え方です。

つまり、米軍基地は(裁判所では違憲かどうか判断できないため)現状では違憲扱いにならないとされています。

 

基地問題の現実(設置場所・負担の論点)

ところが、米軍基地を違憲扱いとしない(=米軍基地を日本に置いておくことを認める)とした場合、1つ問題が発生します。

それは、「どこに米軍基地を設置するのがよいのか」です。

もし、自分が住んでいる地域に米軍基地を作るとなった場合、米軍の暴行、軍による事故や騒音など、様々な懸念が考えられるため、米軍を撤退させるという発想もあるのかもしれませんが、米軍を撤退させることによる懸念もいろいろと考えられます。

そう考えると、米軍基地をどこに設置しておくのがよいのでしょうか。

現状は、普天間基地(沖縄県)への移設が進められています。この判断は正しいのでしょうか、それとも別の基地の移設が必要なのでしょうか。

 

 

【日本の安全保障の今後:集団的自衛権と武器の輸出】

集団的自衛権を考える

日本の安全保障に関しては、最初にモデルケースを1つ考えます。

[モデルケース検討]

日本、A、Bという3つの国があるとします。また、日本とAが同盟関係だとします。
この状況で、もしBがAに攻撃したら、AがBに反撃することが予想されます。(AはやられたからBにやり返しているという状況です。)
そこで、BがAに攻撃した時に、AがBに反撃するのと一緒に「Aと同盟関係を結んでいる」という理由で日本もBに攻撃するとします。(ただし、日本はBからの攻撃を受けていません。)

このような、「自分は攻撃されていないけど、仲間が攻撃されたから仕返しを行う」という日本のBへの行動は憲法9条違反にあたるでしょうか。

 

このようなモデルケースを考えると、日本の行動は戦力としてBに戦争をしかけているようにも見えますが、現状はこのような日本の行動が合憲とされています。なぜでしょうか。

それは、日本が集団的自衛権を認めているからです。
同盟関係にある国が攻撃されたときに自分も攻撃する権利を集団的自衛権と言います。

 

「かつての立場」→「現在の解釈改憲」への転換

一部の人達は「集団的自衛権は憲法9条に違反するのでは?」という疑問を抱くかもしれませんが、現状の日本は「集団的自衛権は自衛権の範囲を超えず、実力で阻止しているため、戦力にあたらない」と解釈しています。

ちなみに、戦後の日本は「集団的自衛権は自衛権の範囲を超えた戦力である」として憲法9条に違反するという立場から集団的自衛権を認めてきませんでした。
つまり、現状の日本は昔から考えられてきた憲法の解釈を変えることで合憲扱いにしています。(これを解釈改憲と呼びます。)

 

日本の武器輸出に対する考え方

日本は、武器輸出に関して「武器輸出三原則」というものがあります。

これは、日本は「①共産圏 / ②国連での禁輸決議国 / ③紛争当事国」の3か所への武器輸出をしないというものでした。

 

ところが、2014年に武器輸出三原則が「防衛装備移転三原則」に変更となりました。

これは、武器輸出に関するルールが大きく変わり、
「①紛争当事国への移転禁止/②武器輸出の要件は国際協力や日本の安全保障に資することが重要/③目的外使用や第三国への移転は事前の日本の同意が必要」
という3つのルールが誕生しました。

さらに、このルールは2023年・2024年に少しずつ改正され、段階的に武器輸出が緩和されていると言われています。

 

世界全体でいろいろと起きている昨今で、日本の平和を維持するベストの方法はなんでしょうか。

 

【あわせて読みたい】

 

【※参考:『平和の今後』を一気に整理】

〈このまとめで確認すること〉

– 有事法制の意味と広がり
– 海外派遣の整理軸(派遣と派兵の違い)
– テロ特措法・イラク特措法の要点
– 砂川事件と統治行為論
– 集団的自衛権と解釈改憲

 

1.有事法制

– 有事法制は、有事の際に自衛隊がどう対応するかを定める枠組み。
– 周辺事態をめぐる考え方や関連法により、対応範囲が拡張されてきた。
– 関連3法=基本方針/関連7法=具体的行動の整理が重要。

 

2.自衛隊の海外派遣

– 前提としてPKO協力法が土台になる。
– 重要注意:自衛隊は「派遣」であって「派兵」ではない。
– テロ対処・イラク復興支援・海賊対処・国際平和支援のように、
派遣の根拠法で範囲が決まると理解する。

 

3.具体例(テロ特措法・イラク特措法)

– テロ特措法は、同時多発テロ後の後方支援を背景に制定され、期限や失効の経緯がポイント。
– イラク特措法は派遣の根拠となったが、名古屋高裁が違憲判断を出した点が入試で狙われやすい。

 

4.日米安保と米軍基地(砂川事件)

– 在日米軍の合憲性が争われた砂川事件では、
統治行為論が重要なキーワードになる。
– 安全保障の高度な政治性と司法判断の距離を理解しておく。

 

5.集団的自衛権と解釈改憲

– 集団的自衛権=同盟国が攻撃されたときに自国も防衛行動をとる権利。
– 日本は過去の解釈から転換し、
現在は一定範囲で合憲とする立場をとっている(解釈改憲)。

 

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