「国会議員は、会期中なら逮捕されない」
この一文だけを見ると、国会議員は特別に守られた人に思えます。悪いことをしても許される制度なら、納得できないのは当然です。
しかし、議員特権の目的は、議員をえらい人として守ることではありません。
もし政府に反対する議員を、警察が都合よく逮捕できたらどうなるでしょう。もし議院で政府を批判するたびに、院外で法的な責任を問われたらどうなるでしょう。国会は、行政の権力を監視できなくなります。
議員特権が守っているのは、国民の代表が自由に出席し、発言し、表決できる「国会の権力そのもの」であり、議員個人の権利ではありません。
憲法は、衆議院と参議院を、全国民を代表する選挙された議員で組織すると定めています。議員特権は、この代表者が圧力に負けずに仕事をするための保障です。
初学者向け|議員特権・国会の運営・国会の種類
議員特権でおさえるべきことはなにか
高校レベルでは、国会議員の保障を次の三つに整理します。
| 特権 | 直接守るもの | 範囲を決める言葉 | なぜ必要か |
| 不逮捕特権 | 議院へ出席する身体の自由 | 会期中 | 逮捕を使って審議や表決から排除されないため |
| 免責特権 | 自由な演説・討論・表決 | 議院で行った行為 | 院外からの圧力を恐れず発言・表決するため |
| 歳費 | 議員活動を続ける生活の土台 | 法律で定める相当額 | 財産の多い人だけでなく、代表者が職務に専念できるようにするため |
国民を代表する仕事を守るために必要な範囲だけ、通常とは異なる保障を準備する。これが議員特権の原則です。
この表で最も大切なのは、特権の名前ではありません。三つがそれぞれ、国会議員の身体・言葉と一票・生活の土台を守っていることです。
不逮捕特権・免責特権・歳費の三つは「どんなときも守られる」のではなく、必ずその範囲と限界があるので、その部分をつかみます。
不逮捕特権――守るのは「逃げる自由」ではなく「出席する自由」
不逮捕特権とは、法律で定める場合を除き、国会議員が国会の会期中に逮捕されないという保障です。
なぜ、逮捕と国会への出席が結び付くのでしょうか。
逮捕されれば、議員は委員会や本会議に出席できません。質問も表決もできません。たった一人の欠席で採決の結果が変わることさえあります。
つまり、逮捕は一人の身体を拘束するだけでなく、その議員に票を託した国民の声を、国会から消す力をもってしまうわけです。
不逮捕特権の目的は、犯罪を見逃すことではありません。逮捕という強い力が、国会の審議や表決をゆがめる道具になるのを防ぐことです。
「会期中なら絶対に逮捕されない」わけではない
ここが、試験問題で最も切られやすい部分です。
会期中でも、院外での現行犯なら逮捕されます。また、所属する議院が逮捕を許諾した場合も逮捕できます。
| 場面 | 扱い |
| 会期中の通常の逮捕 | 原則として、その議院の許諾が必要 |
| 院外での現行犯 | 議院の許諾がなくても逮捕できる |
| 会期前から逮捕されている | その議院が要求すれば、会期中は釈放しなければならない |
| 会期が終わった後 | 不逮捕特権による会期中の保障はなくなる |
不逮捕特権は、起訴されない権利でも、有罪にならない権利でもありません。逮捕の時期と手続を調整することで、国会の活動を守るためにあります。
不逮捕特権=会期中。ただし、院外の現行犯と議院の許諾は例外です。
免責特権――守るのは「何を言ってもよい自由」ではなく「恐れず議論する自由」
免責特権とは、国会議員が議院で行った演説・討論・表決について、院外で責任を問われないという保障です。教科書では、発言・表決の無答責と表すこともあります。
国会では、政府の失敗を追及したり、強い組織を批判したりする必要があります。そのたびに院外で法的な責任を問われるなら、議員は安全な発言しかできなくなります。
それでは、国会に反対意見を集めて政策を点検する意味がありません。
免責特権は、批判や少数意見を含め、国会議員が議院で発言と一票を自由に出せる状態を守る制度です。
「院内」と「院外」を分ける
免責されるのは、議院で行った演説・討論・表決です。
同じ内容でも、街頭演説、記者会見、SNSへの投稿など、院外で行った発言まで当然に免責されるわけではありません。また、議院の内部では、その院の規則に基づく懲罰の問題が残ります。
ここからわかるのは、不逮捕特権と免責特権の違いです。
不逮捕特権は「いつ」を会期中に限り、免責特権は「どこで何をしたか」を議院での演説・討論・表決に限ります。
免責特権=議院で行った演説・討論・表決だけの話です。院外の発言や、議員のあらゆる行為を守る制度ではありません。
歳費――お金の保障が、なぜ民主政治を守るのか
憲法は、両議院の議員が、法律の定めるところにより国庫から相当額の歳費を受けると定めています。歳費とは、国会議員に支給される報酬です。
「報酬が特権なのか」と感じるかもしれません。しかし、議員の仕事に十分な報酬がなければ、財産の多い人や、別の組織から生活を支えてもらえる人しか政治に参加できなくなります。
それでは、国会が社会のさまざまな立場を代表することは難しくなります。
代表者が特定の支援者のお金に頼り切らず、議員活動に専念できる土台を公費でつくる。
歳費には、代表者の独立を守る意味があります。
国会法は、議員の歳費を一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない額としています。ただし、裁判官の報酬のように「在任中は減額できない」と憲法が保障しているわけではありません。
歳費は、国民の代表が職務を続けるための公的な生活基盤です。
前提は「議員=全国民の代表」であるということ
憲法43条は、国会議員を全国民の代表としています。
これは、議員が選挙区や特定の団体から細かな命令を受け、その命令どおりにだけ動く代理人ではない、という考えにつながります。(これを命令委任の禁止といいます。)
議員は討論を通して、自分の判断で全国民の利益を考えることが期待されます。
だからこそ、議員には自分で判断できる環境が必要です。
- 逮捕によって議院から外されない――不逮捕特権
- 院外からの責任追及を恐れず発言・表決する――免責特権
- 生活を他者に握られず職務に専念する――歳費
三つの特権は、「全国民の代表である国会議員が、国会議員自身の身体・言葉・生活を他の権力に握られずに働く」という一つの目的から生まれています。
国会議員について、有権者が任期の途中で議員を辞めさせる解職請求(リコール)の制度はありません。
地方公共団体の議員や長に対する解職請求とは区別してください。
共通テストでは「何を・いつ・どこまで守るか」を見る
議員特権の問題は、次の三つを確認すれば解けます。
1.何を守るのか――身体、発言・表決、生活のどれか。
2.いつ守るのか――会期中だけか、時間ではなく行為の場所で決まるのか。
3.どこまで守るのか――例外や院外の行為まで含むのか。
| 記述 | 判定 | 理由 |
| 国会議員は、会期中ならどんな場合も逮捕されない | 誤り | 院外の現行犯や議院の許諾という例外がある |
| 免責特権は、会期中だけ認められる | 誤り | 会期ではなく、議院で行った演説・討論・表決かどうかが基準 |
| 国会議員の街頭演説は、すべて免責特権で守られる | 誤り | 院外の発言は当然には対象にならない |
| 議員特権は、全国民の代表が自由に活動するために認められる | 正しい | 三つの保障をつなぐ制度の目的である |