【実存主義とは】
「人間らしさ」を考えるにあたり、経済のような社会システムに注目するのではなく、もっと人に注目した方がいいのではないかという発想が出てきました。
では、もしあなたの大切な人から、「私、なんのために生きているのかわからない」と困っている人がいたとしたときに、あなたはどのようなアドバイスを送りますか。
この質問に対する回答はいろいろと考えられそうです。相手の状況にもよりますし、環境などでも変わってくるかもしれません。
そこで、考えられる回答の1つに「あなたの存在それ自体が大切だから生きていることに意味がある」というのがあります。このように、「現実に存在」することを前提として、「その人の行為よりもその人自体に価値がある」とする考え方を実存主義と呼びます。
実存主義に該当する人は、大きく5人です。
【キルケゴールの考え方(主体的な真理)】
人間の生きる目的はなんでしょうか。
生きる目的は、人によって全く異なるでしょう。目的の大きさや方向性などは個々人が全てバラバラです。そこで、キルケゴールという人は、人間は「主体的な真理」が重要であるとしました。
主体的な真理とは「自分だけにあてはまる生きる目的」のことを指します。つまり、自分自身で考える生きる目的が思いつくならば、その思いついた目的が重要であり、目的があることで、自分自身が存在している価値があると思えるようになり、結果として実存主義が充実すると考えました。
【ニーチェの考え方】
ニーチェという人は「神は死んだ」という言葉でニヒリズムの時代の到来を伝えました。
ニヒリズムとは「虚無主義」とも表現されます。今まで最高の価値と人々がみなし、目的としていたものが無価値となる事態のことを指します。
では、人々は、何を今まで最高の価値とみなしていたのでしょうか。
ニーチェによると、当時の人々は「神」を最高の価値とみなしていました。ところが、時代が進むにつれて「神」の意味がなくなったと考えはじめました。代表的なものは産業革命です。今までは「神」が自然をコントロールしていたのですが、産業革命によって人間が自然をコントロールできるようになりました。このような状況になると「神」という絶対的な価値が弱くなってきたと考えられるようになり、ニーチェはこれを「神は死んだ」と表現しました。
また、ニーチェの考え方でもう1つ重要な発想が生まれました。
突然ですが、自分の人生を見つめるときに、「過去」と「未来」のどちらを大事にすべきでしょうか。
ニーチェ以前は、生きる理由を神に求めていました。ところが、「神は死んだ」という状況の今、神に頼っていた過去を振り返っても意味がありません。しかも、「神は死んだ」以降の未来も神がいることを想定していたため、未来を考える意味がありません。そこで、ニーチェは生きる理由を「今」に注目して自分で創り出すべきだと考えました。(この考え方を「超人」思想と呼びます。)
つまり、ニーチェは過去にも未来にも縛られず、「今」に注目して生きる理由を創り出していくべきだとしました。(このようなニーチェの発想に勇気づけられた人もいるかもしれません。ニーチェの考え方は現在も世界中で人気の思想の1つになっています。)
【ハイデッガーの考え方】
ハイデッガーは、「死への存在」に注目しました。要は、「死」を意識すると生きている理由を見いだせるのではないか、と考えました。
【ヤスパースの考え方】
ヤスパースは、「限界状況」への直面に注目しました。限界状況とは、死や苦しみなど「越えられない壁」のことです。ヤスパースは、「限界状況に直面すれば、生きている理由が見いだせるのではないか」と考えました。
【サルトルの考え方】
サルトルは、「実存は本質に先立つ」という言葉を残しました。実存は自分の存在、本質は運命です。つまり、「実存は本質に先立つ」は「自分の運命は自分で決められる」という意味です。そういった意味で、人間は自由であり、自分で自由にやりたいことができると考えました。
ただし、自由であることにはデメリットもあると考えました。それは「自由には責任が伴う」という点です。そのため、サルトルは「人間は自由の刑に処せられている」と表現しました。
また、サルトルは実存主義の立場から、生きている理由を見出すために、経験に注目しました。
では、「生きている!」と経験から実感するためには、どうすれば良いのでしょうか。
サルトルは、「生きている!」と実感するためには、社会に参加することが大事だと考えました。これをアンガージュマン(社会参加)と表現します。
つまり、サルトルは「社会に参加して、自由と責任を実感することが生きている実感につながるのではないか」と考えました。
【※参考:ハンナアーレントの思想】
人間において、最も重要なのは、労働・仕事・活動の3つのうち、どれでしょう。
ハンナアーレントという人は、人間の生き方を「労働・仕事・活動」の3つに区分しました。
労働とは、生存を維持する営みです。また、仕事とは、耐久物をつくる営みです。そして、活動は人と人とが直接に結びつく営みです。
ハンナアーレントは、この3つのうち、活動を最も重視しました。また、人と人とが直接に結びつく営みを政治と呼びました。さらに、政治は他者やコミュニティでの公共性を築くとし、人間の本質であると考えました。なお、ハンナアーレントは人々が他者とつながることを重視しました。(孤立を問題視したというわけです。)