需給曲線の分析で、「価格」と「数量」を調整することの重要性が把握できます。
ところが、需給曲線はさらに2つの視点を持つことで、より深い分析をすることができます。それが「左右への移動」と「傾き」です。
例えば、同じ「売上が伸びた」でも、原因が違うと「動く曲線」が違います。
・SNSで話題になって売れた → 買いたい気持ちが増えた
・技術革新で安く大量生産できた → 売りたい気持ちが増えた
となるでしょう。
さらに、価格を上げ下げしたときに「どれくらい売れ方が変わるか」まで読めるようになるのを「価格弾力性」と呼びます。
この記事では、
・需要曲線/供給曲線が左/右に動く要因を理解できる
・価格弾力性が「大きい/小さい」とき、曲線の「傾き」の意味が理解できる
ようになっています。
【需給曲線の変化を理解するための2つの確認】
需給曲線の移動と傾きを理解するためには、2つのことを前提にしておく必要があります。
前提①:その出来事は「需要」と「供給」のどちらに影響を与えるのか考える
1つめは、「どちらの曲線について考えるのか」です。
ビジネスの世界や現実の社会で起きたその出来事は、需要曲線を動かすことになるのか、供給曲線を動かすことになるのか、を把握する必要があります。
前提②:必ず「左へシフト=減少」/「右へシフト=増加」になる
2つめは、「曲線の左右の移動に何の意味があるのか」です。
右に移動する場合は需要でも供給でも増加を、左に移動する場合は需要でも供給でも減少を表します。
(需給曲線の横軸が数量を表すため、左右の移動で数量の変化を表せます。もし、需要曲線が右に移動した場合は、同じ価格で売れる量が増えることを意味するわけです。)
この2つを前提に「左右への移動」と「傾き」を考えます。
【需要曲線の移動(どうすれば人々は商品やサービスを買いたいと思うのか)】
需要は「人々の買いたい気持ち」です。
曲線は右に移動すれば増加を表すので、需要曲線が右に移動すると「人々の買いたい気持ちが増えている」ということになります。
では、どうすれば人々の買いたい気持ちが増える(人々が買いたいと思う)のでしょうか。
具体的にコンビニのパンで考えてみます。
需要曲線の右シフトの要因①:所得の増加
まずは、買う人々の給料が増えることです。
つまり、国民の所得が増えれば「お金に少し余裕があるし、パンをちょっと多めに買ってもいいか」となることが考えられます。
需要曲線の右シフトの要因②:代替財の価格上昇
また、ライバルより安い価格設定をすることも有効な手段の1つです。
ライバルの商品のことを経済の世界では代替財と呼びますが、代替財が値上がりすることで、自分たちの商品が買ってもらえる可能性があります。
つまり、代替財が値上がりすれば「ライバルのパンよりもこっちのパンのほうが安いから買ってもいいか」となることが考えられます。
需要曲線の右シフトの要因③:補完財の価格下落
さらに、コーヒーなどのようなパンとセットで売れると考える商品の価格設定を安くすることも有効です。
「コーヒーが安くなっていて買うから、コーヒーに合うパンも一緒に買うか」となることが考えられます。
なお、コーヒーと一緒にセットで売れるパンのように、セットで売れる商品のことを経済の世界では補完財と呼びますが、補完財が値下がりすることで、パンの買いたい気持ちが増えることが予想できます。
需要曲線の右シフトの要因④:広告・流行・良いイメージの普及
そして、そのパンがテレビやSNSなどで取り上げられて「この間テレビやSNSで見た商品だから一度買ってみるか」ということも考えられます。
つまり、広告宣伝などによる人々の需要の増加という点も需要曲線を動かすことが考えられます。
このように考えていくと、「所得の増加・代替財の値上がり・補完財の値下がり・需要の増加」などによって人々の買いたい気持ちを増やすことができると考え、需要曲線が右に移動します。
※注意:逆の現象は全て「需要曲線を左にシフトさせる」
ただし、逆を考えると需要曲線が左に移動することも考えられます。
つまり、「人々の所得が減る、ライバルのパンの値下がり、パンと一緒に買うコーヒーの値上がり、その商品のマイナスイメージの広がり」などで、人々の買いたい気持ちが減ることも十分に考えられるわけです。
【どうすれば企業は商品やサービスを作りたいと思うのか(供給曲線の移動)】
企業は日夜様々な商品開発に取り組んでいます。ただし、企業は自分たちが作りたいと思った商品を全て作るというわけではありません。
それは、企業の目的があくまでも利潤追求だからです。
つまり、企業は儲かる商品を作りたいと考えます。(作りたいものだけ作るのは、ビジネスではなく趣味やボランティアの世界となってしまいます。)
では、企業はどういう商品を作りたいと考えるのでしょうか。
供給曲線の右シフトの要因①:企業が「売れる」と判断した商品
1つは、当然ですが売れる商品です。
つまり、その商品を販売して儲かるのであれば企業はたくさん作りたいと考えます。
ところが、それ以外にも企業は商品開発をするかどうかに大きな判断ポイントがあります。
供給曲線の右シフトの要因②:企業の体力が多い
その1つが「そもそも企業自体が元気かどうか」です。
企業の利益が増えていて、企業の調子が良ければ「お金に余裕もあるし、新しい商品を作ってみるか」ということが可能になります。
逆に、企業にお金の余裕がなければ今の事業を運営するのに精いっぱいで、新しい商品開発まで手が回りません。
そのため、企業が儲かっているというのは、当然ですが重要な要素であり、企業が儲かっていると、供給曲線が右に動くことが考えられます。
供給曲線の右シフトの要因③:その商品の費用が安く済む(材料費の下落/技術革新)
また、「その商品を安く作ることができる」という点も重要です。
企業の利潤は「売上-費用」で計算できるので、企業の利潤を増やすためには、費用を減らすことができればよいわけです。つ
まり、商品を作るのに安く作ることができれば、費用をおさえることができます。そのため、企業は費用が安く抑えられるときに商品を作りたいと考える要因と考えられます。
費用を安く抑える要因は主に2つです。
1つは「材料費の価格が下がること」です。
その商品をつくる材料費を安く抑えれば、結果的に商品を安くたくさん作ることが可能になります。
もう1つは技術革新です。
技術が開発されると商品を大量に作ることができるようになります。機械などで大量生産できるようになると、商品1つあたりの費用をおさえることができるようになります。
つまり、「大量生産の実現」が費用をおさえることにつながります。
供給曲線で考えれば、材料費の価格の下落や、大量生産の実現は供給曲線を右にシフトさせることにつながるわけです。
【価格弾力性の大小の影響を考える(トイレットペーパーを売るのに、なにをアピールするべきなのか)】
そもそも価格弾力性とはなにか(前提の考え方)
経済の世界では、価格弾力性という言葉があります。
弾力性は影響という意味だと考えてください。
販売する商品によっては、価格の影響が小さいものと大きいものが存在します。
つまり、弾力性が小さいものは価格の影響が小さく(価格に影響されづらく)、弾力性が大きいものは価格の影響が大きい(価格の影響を受けやすい)とされています。
では、どのような商品が価格の影響が大きかったり、小さかったりするのでしょうか。
価格弾力性が大きい例(価格の影響を受けやすい)
一般的に価格の影響が大きい商品として、贅沢品や工業製品があげられます。
宝石などの贅沢品はなくても生活には困りません。そのため、価格が少し上がると売れる数が急激に減ってしまうという特徴があります。
また、工業製品は競合(ライバル)が多く、より安い商品を人々が求める傾向にあるため、価格が高いと売れづらい特徴があります。
価格弾力性が小きい例(価格の影響を受けづらい)
一方、価格の影響が小さい商品として、生活必需品や農産物などがあげられます。
トイレットペーパーなどの生活必需品は生活をする上で絶対に必要なので、価格が多少上がったとしても販売量がそこまで減ることにはなりません。
また、農産物などの食料品は、人間は常に同じものを食べ続けることが難しく、様々な種類の食品を買うことが考えられるため、野菜や肉類などは価格が高くても一定程度は売れることが予想されます。
価格弾力性から考えるビジネス戦略
ここから考えられていることとして、価格の影響を受けづらい商品は価格以外を、価格の影響を受けやすい商品は価格を検討すると、より売上を増やすことができるということが言われています。
需給曲線のグラフの読み替え(大→ゆるい/小→急)
なお、需給曲線で考えた場合、価格弾力性が大きい場合は曲線の傾きが緩やかになると言われています。
また、価格弾力性が小さい場合は曲線の傾きが急になると言われています。
これらのような、需要曲線と供給曲線の「移動」と「傾き」を考えることが、ビジネスの世界では重要になるというわけです。
【※参考:完全競争市場という前提】
完全競争市場の4条件(多数/参入自由/情報完全/同質財)
需要と供給の関係を考える場合、完全競争市場というのが前提となっています。
それは、
②市場への参入・離脱が自由であること
③商品について完全な情報が行き渡っていること
④扱われる商品が全て同じであること
という4つが全て実現していることが前提で需要と供給を考えられています。
1つ崩れると何が起きる?(市場の失敗へ)
逆に考えると、この4つのうちどれか1つでも崩れた場合は、需要と供給の関係が正しく機能しなくなるというわけです。
なお、この4つを全て満たす市場は基本的に存在しません。特に③と④などは難しいことが一瞬で分かります。
このように、完全競争市場が崩れた場合を「市場の失敗」と呼びます。
実は、現代社会の多くが「市場の失敗」を上手に活用しているというわけです。
※参考:需給曲線の「移動」と「傾き」のまとめ
【概要】
・前提(曲線が動く/曲線上を動く)
・需要曲線の移動(所得・代替財・補完財・広告)
・供給曲線の移動(企業の利益・費用・材料費・技術革新)
・価格弾力性(大/小と傾き)
・完全競争市場(前提4条件)
【ポイント】
【1】需給曲線は「左右への移動」と「傾き」で、現実の変化を深く読める。
【2】需要曲線は「買いたい気持ち」。所得増、代替財の値上がり、補完財の値下がり、広告などで右に動きやすい。
【3】供給曲線は「作りたい気持ち」。企業が元気、費用が下がる(材料費↓・技術革新)と右に動きやすい。
【4】価格弾力性は「価格の影響の大きさ」。贅沢品・工業製品は影響が大きく、生活必需品・農産物は影響が小さい。弾力性が大きいほど曲線はゆるく、小さいほど急。
【5】需給分析は完全競争市場を前提にするが、現実では崩れやすく、そのとき「市場の失敗」が問題になる。