学校や職場など、集団で話し合いをするときには「参加者全員が話し合いの結果に納得すること」が求められます。(これを合意形成と言います。)
はたして、どうすれば「全員が納得したうえで意見を一致させる」ことができるのでしょうか。参加者全員の意見を一致させる方法は何が考えられるのでしょうか。
そして、その話し合いを現実の社会で具現化していくためには、どのような方法が考えられるのでしょうか。
この問いを社会全体のルールづくりにまで広げて考えたのが、社会契約説です。ざっくり言えば、「話し合いによって、権力の正当性や社会のルールをどう決めるか」という考え方です。
ここでは、ホッブズ・ロック・ルソーの3人の社会契約説を取り上げ、
・それぞれの考え方の特徴
・何を譲り、何を守ろうとしたのか
・現代の民主政治とどうつながるのか
を、クラスの話し合いの例を使いながら整理していきます。
【社会契約説を考える時の2つの前提】
社会契約説を考えるために、以下の簡単な例を検討します。
学校のクラスで学園祭の発表内容を決めるとします。どのように決めれば、クラスのメンバー全員が納得した発表内容になるでしょうか。
このクラスの例を、社会全体のルールづくりに広げて考えたものが社会契約説です。
繰り返しですが、社会契約説とは、ざっくり簡単に言うと話し合いのことです。
その社会契約説を理解するうえで、まずは「前提になる2つの考え方」をおさえておきましょう。
それは、「個人を尊重すること」と「自然権を保障すること」の2つです。
個人の尊重は名前の通りで、話し合いに参加している人それぞれを尊重することを指します。
(誰かの意見を尊重せず蹴落とすなどのようなことがあっては、参加者全員が納得できるような合意形成にはつなげられません。)
また、自然権とは「誰かを殺してはいけない」「誰かのものを盗んではいけない」など、人として持っている当たり前の権利を指します。
自然権がなくなったら、穏便な話し合いではなく、暴力的手段で最終的に物事の優先順位を決めてしまう、といったようなことが起きてしまうかもしれません。
当然ですが、このように2つの前提が崩れたら話し合いが成り立たなくなってしまいます。
そのため、個人の尊重と自然権の保障というのが社会契約説を考えるときの前提になります。
では、具体的に参加者全員が納得した内容を作るために、どのような話し合いの方法が考えられるのでしょうか。
ここでは、3人が話し合いの方法を考えました。
【社会契約説①:ホッブズ―自然権の譲渡と「おまかせ政治」】
「話し合うと争う」ホッブズの前提
1人目はホッブズという人です。
ホッブズは、話し合いをすると意見が割れて人々が揉めてしまうと想定しました。
だとしたら、ヘンに話し合いをするよりも、クラスのリーダーや担任などに代表して決めてもらった方がいいのではないか、と考えました。
自然権を“譲渡”してリーダーに全部任せる
つまり、物事を決定する権利を全てリーダーや担任にゆだねるのが良い、という発想になったわけです。
この発想をホッブズは「自然権を譲渡する」と表現しました。
鋭い人は、これだと「結局絶対王政と変わらないのでは?」という疑問が生じるかもしれませんが、その通りです。
ホッブズは結果的に絶対王政を擁護することにつながりました。
これに対して、「もう少し市民の自由を守る仕組みはないか」と考えたのがロックです。
【社会契約説②:ロック―自然権の信託と抵抗権】
代表者に自然権の一部を「信託」する
2人目はロックという人です。
ロックは、ホッブズのような結果的にリーダーに全てを任せるという発想はやりすぎだと考えました。
そこで、グループの中で代表者を決めて、その代表者に話し合いの結果を伝え、代表者どうしが話し合って決めるのが良いとしました。
つまり、クラスの意見はクラスの代表者を決めて、その人たちに話し合って決めてもらうべきとしました。
この発想をロックは「自然権の一部を信託する」と表現しました。
権力が暴走したときの抵抗権(革命権)
ちなみに、代表者による話し合いで物事を決めたとしても、最終的に判断するリーダーが誤った判断をすることも考えられるでしょう。
その場合は、人民は抵抗権(革命権)を行使することによって、リーダーを交代させることができるとしました。
このようにロックは、ホッブズよりも市民の自由を重視しつつ、代表者に権利を信託することで現実的な政治を考えました。
ただし、ロックの考える「代表者に任せる話し合い」という方法にも問題点があります。
それは、「代表者が本当に自分たちの意見を話し合いに反映させてくれるかわからない」という点です。
グループで話し合って意見を代表者に伝えたとしても、代表者がそのグループを裏切って代表者自身の意見をグループの意見として主張してしまうことも考えられるでしょう。
そこで、ホッブズやロックと違う、新たな考え方が登場しました。
【社会契約説③:ルソーの考え方】
全員で話し合う「一般意志」を重視
その新たな考え方になるのが3人目のルソーという人です。
ルソーは、なんだかんだ言って、結局はクラス全員で話し合うのが理想で、実際にクラス全員で一斉に話し合うべきだとしました。つまり、参加者全員が直接話し合うのが重要だと考えました。
そうすることで、そこに集まっている集団の本当の意見がまとまるだろうと考えたわけです。
この時の集団の本当の意見を一般意志と呼んで重視しました。
ちなみに、集団全体ではなく、全員の個々の意見を尊重する状態を全体意志と呼び、批判しました。(なお、個々が持つ意見を特殊意志と呼び、特殊意志の総和を全体意志と呼びました。)
間接民主制と直接民主制の違い
また、ロックのように誰かを間にはさんで意見を述べる発想を間接民主制と呼び、ルソーのように自ら直接話し合う発想を直接民主制と呼びます。
(現在の日本は、選挙という形で間接民主制を実施させています。)
はたして、3人の中で最も優れている社会契約説はどれなのでしょうか。どの社会契約説が現代に適しているのでしょうか。
【あわせて読みたい】
・市民革命後、人々は国に何を求めたのか?(自由権・参政権・社会権と法律の3つの前提)
・政治を考える時の3つの大前提は?(国民主権・議会制民主主義・多数決と権力分立・選挙の歴史)
【※参考:3つの社会契約説をどう使い分けて理解するか】
3つの社会契約説には、共通点と違いがあります。
共通しているのは、権力の正当性を「話し合い」や「契約」の考え方で説明しようとした点です。
そのうえで、やり方が次のように分かれました。
○ロック:代表者に一部を預け、暴走したら変えられるようにする(信託と抵抗権)
○ルソー:全員で直接話し合い、一般意志にもとづいて決める(直接民主制)
現代の民主政治は、この3つの考え方をバランスよく取り入れながら、「誰がどこまで決めるべきか」を考えていると言えます。