一般的に差別とは、「人種や性別、生まれ育った環境などを理由に、合理的な根拠なく不利に扱うこと」を指します。
ただし、日本国憲法は「法の下の平等」(14条)を定めていますが、法律があるだけで差別がなくなるわけではありません。
このページでは、
・女性差別(芝信用金庫訴訟)
・部落差別(歴史と現在の課題)
・民族差別(アイヌ民族と二風谷ダム訴訟)
・外国人差別(定住外国人の参政権)
・障がい者差別(ハンセン病国家賠償訴訟)
を取り上げながら、「差別がない社会とはどんな社会か」を、具体的な事例から考えていきます。
【女性差別 : 雇用・昇進の差別と芝信用金庫訴訟】
女性差別撤廃条約と日本の法律(均等法・共同参画基本法)
女性差別については、世界での女性差別撤廃条約を背景に、日本国内で男女雇用機会均等法が成立しました。
(日本は、条約の批准のために、男女雇用機会均等法を先に制定しています。つまり、「世界で女性差別撤廃条約が誕生」 → 「日本で男女雇用機会均等法制定」 → 「日本が女性差別撤廃条約を批准」 という順番になっています。)
さらに、その後に男女共同参画社会基本法が成立しています。
ただし、法律が制定してもジェンダー差別は未解決である点は注意しましょう。
芝信用金庫訴訟のあらすじと争点 ― 昇進で取り残された女性職員たちの昇進の差は「能力の差」か「性別による差別」か
芝信用金庫というところで働いていた女性職員13名が、昇進において差別的な待遇を受けたとして訴訟を起こしました。実は、女性職員13名以外にも同じタイミングで入社した男性職員が複数名いたのですが、昇進したのは男性職員ばかりでした。そのため、女性職員が「男性社員が最も遅く昇進したタイミングと同じタイミングで昇進しろ」と訴えた、という裁判です。男性だけ昇進していくのは女性差別だとする考えもあれば、昇進しないのは、その人たちの能力の問題なのかと言われたら、それも難しい問題です。
はたして、女性13名の昇進は認めるべきでしょうか。それとも、認めないべきでしょうか。
《裁判の判決》
この裁判に対しては、最高裁判所で和解が成立しました。
高等裁判所では、同じ時期に採用され、勤続年数や勤務成績も同程度である女性職員だけを、昇進の対象から事実上外していたことは、性別を理由とする不合理な差別であり違法だと判断しました。
その結果、原告女性たちは、同期の男性と同じ時期に課長職に昇進したものとみなされる地位の確認や、差額賃金・慰謝料の支払いを受けることになり、最終的に最高裁判所で和解しています。
この事件から考える「ジェンダーと働き方」
この事件から、「人事評価」や「昇進の判断」といった一見あいまいな領域でも、実際には性別で線引きをしている場合、それは違法な性差別と認定されうることがわかります。
そして、女性差別は、法律だけでなく、裁判を通じた具体的な是正によっても改めていくことができる、という平等権の具体的な姿を示す事件であるとされています。
【部落差別 : 歴史的な身分制度と現在も残る差別】
士農工商の裏側にあった被差別部落
江戸時代には、士農工商という有名な身分制度がありました。ところが、士農工商はあくまでも表面上に見えている差別であり、士農工商よりも下の人達というのが存在しました。この、士農工商よりも下の人達に対する差別を部落差別と呼びます。
全国水平社の結成
部落差別の対策として全国水平社と呼ばれる組織が結成されていますが、この組織は1921年に結成されています。
なお、現在も部落差別は一部で残っているとされます。
【民族差別 : アイヌ民族と二風谷ダム訴訟】
名称の通り、一部の民族に対して発生する差別のことです。
日本で有名な民族差別としては、アイヌ民族(北海道の先住民族)があげられます。
そして、アイヌ民族に関する裁判も存在します。
アイヌ文化振興法からアイヌ施策推進法へ
なお、アイヌ民族に対する法律としてアイヌ文化振興法がありますが、2019年にアイヌ民族支援法(アイヌ施策推進法)へ変わりました。
(アイヌ文化振興法には「先住権」が明記されていませんでしたが、アイヌ民族支援法によって、「先住権」が明記されました。)
二風谷ダム訴訟のあらすじ――聖地にダムを建てる?
北海道庁が、ある地域にダムを建設しようと考え、ある地域の土地の買収をしようとしました。しかし、その土地はアイヌ民族の聖地でした。そのため、アイヌ民族が役所による土地の買収を拒否しました。
はたして、北海道庁によるダムの建設はOKでしょうか、それともダメでしょうか。
裁判所の判断と「事情判決」――違法でもダムは止まらない?
判決は、「ダムの建設はダメ」でした。
ところが、裁判は1日ですぐに判決がでるようなものではありません。長期間の裁判となると、年単位で行われるものも多いです。
実際に、判決が出たときにはダムの建設が終了してしまっていました。
このように、行政処分が違法だとしても、裁判所が違法を取り消すと公共の利益を害すると判断する時、裁判所が請求を棄却することを事情判決と呼びます。
この事件から分かる、先住民族の権利と開発の問題
この事件では、国家や自治体が公共事業を進めるときでも、少数民族・先住民族の文化や生活への影響を軽く扱うことは許されない、という基準を示したことに意義があるとされています。
ただし、同時に、権利侵害が認定されても、既成事実(ダム完成)を理由に十分な救済が得られないこともありうるという、少数者の権利救済の難しさを示す事件でもあると言われています。
【外国人差別 : 定住外国人の参政権など政治参加をめぐる議論】
定住外国人の参政権を認めるかどうかの賛否
外国人に対しても差別かどうか議論すべき点があります。
例えば、定住外国人に日本での参政権を認めるべきでしょうか。「定住しているから、政治参加の権利はアリだ」という発想があれば「外国人に日本の政治参加をさせるのは良くないからナシだ」という発想も考えられます。
現状、日本では定住外国人の参政権を認めていません。
(なお、その地域のみで行われる住民投票については認めている自治体が増えてきています。)
【障がい者差別 : ハンセン病国家賠償訴訟と障害者基本法】
障害者基本法と「障害のある人の権利」
障がい者差別に関しては、障害者基本法という法律が制定されています。また、障害者差別に関する有名な裁判として、ハンセン病に関わるものがあります。
※参考:「がい」と「害」
「障がい者」と表現することがあれば「障害者」と表現することもあります。これは、どちらでも問題ないので、テストなどで解答する際は表記を統一しておけば問題ないとされます。
ハンセン病国家賠償訴訟のあらすじと判決 ―「らい予防法」の削除と国の責任を問う
以前、「らい菌」というのが話題になりました。「らい菌」に感染した人をハンセン病患者と呼びました。そこで、ハンセン病患者は「らい予防法」に基づいて、ハンセン病に感染したら、隔離の対象として生涯施設に入れられることになりました。しかし、らい予防法は1996年に廃止されましたが、それまで隔離されたことによる苦痛があるため、損害賠償を求めて患者が国に訴訟しました。(苦痛で訴える患者vs法律を作った国)
はたして、患者と国はどちらが勝利したのでしょうか。
裁判所の判断と「国による人権侵害」を認めた意義
結果は、患者の勝利でした。
熊本地裁は、医学的に隔離の必要性がなくなったあとも長期間「らい予防法」を放置し、ハンセン病患者を強制隔離し続けた国の政策は、憲法が保障する基本的人権を侵害しており違法だと判断し、実際に、患者に対して国の責任を認めています。
この裁判から分かることはなにか
この裁判では、偏見や差別に基づく政策を、科学的根拠がなくなったあとも改めずに続けることは、「何もしないこと(不作為)」であっても憲法違反となりうることを示したと言われています。
また、病気や障がいを理由に人を社会から排除したり隔離したりすることは、人権侵害として国家の責任が問われる、という点をはっきりと示した事件であるとも言われています。
このように、世の中には非常に多くの差別が考えられています。
今後、世の中の差別をなくすために、個人や社会がすべきこと(できること)は、なにがあるのでしょうか。
【あわせて読みたい】
【参考 : 5つの差別問題と3つの裁判をまとめて整理】
このブロックで確認すること
– 差別問題とは何か(平等=差別がない状態という考え方)
– 5つの差別問題の軸
– 3つの重要な裁判(芝信用金庫/二風谷ダム/ハンセン病国賠)のポイント
1.差別問題とは?
– 差別 … 人種・性別・出身地・障がいなどを理由に、合理的な根拠なく不利に扱うこと。
– 憲法14条の「法の下の平等」は、こうした差別をなくすための基本ルール。
– ここでは「平等=差別がない状態」という考え方を軸にして学んできた。
2.5つの差別問題(キーワードだけ整理)
– 女性差別 …… 職場での採用・昇進・賃金などの差別(芝信用金庫訴訟)。
– 部落差別 …… 歴史的な身分制度の名残として続く差別。
– 民族差別 …… 先住民族であるアイヌなどへの差別(二風谷ダム訴訟)。
– 外国人差別 …… 国籍を理由にした政治参加や就職などの制限。
– 障がい者差別 …… 病気や障がいを理由とする隔離や排除(ハンセン病国家賠償訴訟)。
3.3つの裁判から分かること
– 芝信用金庫訴訟
→ 同じ条件の女性だけ昇進から外すことは、性別を理由とした差別であり許されない。
– 二風谷ダム訴訟
→ 少数民族・先住民族の文化や暮らしは、公共事業の計画の中でも十分に尊重されなければならない。
– ハンセン病国家賠償訴訟
→ 国が偏見にもとづく隔離政策を続けた場合、「国による人権侵害」として責任を問われる。
テストや入試では、
「これはどの差別の話か?」
「どの裁判(判例)と結びついているか?」
を意識することで、選択肢や記述を整理しやすくなります。