「悩み」をどうやって対処すべきか

「なにか悩みを抱えていますか。」

と聞かれたら、頭の中にどのような悩みが浮かんできましたか。

悩みが浮かばない人は、それはそれで幸せなのかもしれませんが、悩みが浮かんだ人は、なぜその悩みで悩んでいるのでしょうか。人が抱える悩みは「誰かに吐き出す」ことで、自分の頭が整理されたり、気持ちが落ち着いたりして解決に向かいやすいと言われているので、素直に吐き出すのも有効な手段の1つです。

では、悩みの解決には、他にどのような方法が考えられるのでしょうか。その手段を探すために、「悩み」について分析します。

 

【なぜ人は悩むのか(悩みの原因)】

悩みの要因は一言で表すと「欲求」です。人には「○○をしたい」とか「△△をしたくない」などの欲求があるから悩むのです。ちなみに、この欲求は大きく2種類に分けられます。

1つ目は「生理的欲求」です。これは、生命の維持に必要で動物が持つ欲求だと言われます。食欲、睡眠欲、性欲、排泄欲求などが該当します。

2つ目は「社会的欲求」です。これは、人間が持つ独特の欲求だと言われます。安全に過ごしたい、誰かと仲良くしたい(誰かに愛されたい)、誰かに認められたい、自分のやりたいことを実現したいなどが該当します。

ちなみに、生理的欲求が満たされないと社会的欲求は満たされないと言われています。逆に、生理的欲求が満たされていない状況では、社会的欲求は出てこないため、生理的欲求が満たされていない時にその人の本性が出ると言われています。遊園地でカップルがケンカして別れてしまうのは、長時間並んでいるときにその人の本性が出るからかもしれません。

そして、欲求は満たされないこともあれば、欲求がたくさんあって困ってしまう、ということもあるでしょう。この、欲求が満たされない状態を「欲求不満(フラストレーション)」と呼び、欲求が重なる状態を「葛藤(コンフリクト)」と呼びます。

 

【悩みの対処法(例)】

自分の友人から

「最近、彼氏・彼女が最近冷たくて悩んでいる。もう疲れた。」

と相談されたら、あなたはどのようなアドバイスを送りますか。また、このような相談以外にも、自分が抱えている悩みはどのように対処するのがよいのでしょうか。

悩みの対処法として、自分を見つめ直して冷静に判断することができればよいのですが、なかなか難しいものです。そこで、悩みは「防衛機制を活用しながら適応行動で対処する」のがよいとされています。防衛機制とは、悩みに対して無意識のうちにごまかして時間を稼ぐことです。また、適応行動とは、欲求不満や葛藤に適応することです。では、適応行動とは、具体的になにをすればいいのでしょうか。

 

 

【適応行動の方法】

適応行動には、大きく2つが考えられます。

1つ目は「欲求不満耐性(フラストレーショントレランス)を高めること」です。これは、様々な方法が考えられますが、自分自身で欲求不満耐性の高め方を検討していく必要があります。

2つ目は「成功体験を積み重ねること」です。実際に経験を積む中で、成功したときを思い出して実践できれば、欲求を満たすことが出来る(悩みが解消できる)とされます。つまり、試行錯誤を繰り返すことで、自分の適応行動を把握していくことが大切になるということです。

では、適応行動で対処するまでの間に活用する防衛機制とは何なのでしょうか。

 

 

【防衛機制とは】

「私は、失恋したら(   )をすることで気持ちを落ち着かせます。」

 

この文章の空欄に何を入れますか?

人間は、緊張やストレスがかかると、その緊張やストレスで自分の心がつぶされないように無意識のうちに自分の心をなにかしらの方法でごまかそうとします。この「無意識の心のごまかし」のことを「防衛機制」と呼び、フロイトが提唱しました。防衛機制には抑圧、合理化、取り入れ、投射、反動形成、逃避、退行、代償、昇華など、いくつもの種類があるので、恋愛と受験の具体例と照らし合わせながら代表的な内容をつかみましょう。

 

抑圧とは、欲求を無意識に閉じ込める(なかったことにする)ことです。恋愛の場合は、「もう恋なんかしない」と思って自分を落ち着かせること、受験の場合は、「ムダに部屋の掃除」などを行い、受験を完全に忘れることなどを指します。

 

合理化とは、欲求に理由をつけて自分を納得させることです。恋愛の場合は、「自分のよさは30代になればわかる」と思って自分を落ち着かせること、受験の場合は「受験の後は明るい未来が待っている」などのようにポジティブにとらえることなどを指します。

 

取り入れとは、他人の行動を見て自分ごとのように満足することです。恋愛の場合は、「もてる友達を見て満足する」こと、受験の場合は、「勉強できる人を見て満足する」ことを指します。取り入れは、その人を憧れの対象(目標)にするならアリだとされます。

 

投射(投影)とは、自分が思っていることを相手が思っていると思い込むことです。恋愛の場合は、「相手が自分を好きだと思う」ことで、現代的にはストーカーに近いものが考えられます。また、受験の場合は、自分が勉強できないのにも関わらず「あいつは勉強ができない」と思い込むことなどを指します。

 

反動形成とは、自分の気持ちと反対の行動を取ることです。恋愛の場合は、「好きな子に冷たい態度を取る」ことで、受験の場合は、「自分にウソをつく(勉強しているのに、周りに勉強していないという)」ことなどを指します。

 

逃避とは、ある出来事から逃げようとすることです。恋愛の場合は、「好きな子と関わらない」ことで、受験の場合は、「受験から逃げる」ことなどを指します。

 

退行とは、子供のときのような行動を取ることです。恋愛の場合は、「幼稚な行動で好きな子の目をひく」ことで、受験の場合は「幼稚な行動で自分の心をコントロールする」ことなどを指します。

 

代償とは、欲求を別の欲求に置き換えて満たすことです。恋愛の場合は、「好きな子ではない別の子と付き合う」ことで、受験の場合は「別の形でストレスの発散を行う」ことなどを指します。

 

昇華とは、欲求を社会的に良いとされるものに置き換えて満たすことです。恋愛の場合は、「恋愛に失敗したからスポーツで頑張る」こと、受験の場合は、「ストレスを社会的に価値の高いものにぶつける(受験勉強への専念)」などを指します。

 

欲求の対処としては、これらのように「防衛機制」と「適応行動」が大切になってきます。

 

 

【悩みについて・補論①(欲求階層説)】

自分の人生で成し遂げたいことは何があげられますか。その成し遂げたいことはどうすれば実現できるのでしょうか。

 

成し遂げたいことの実現方法を欲求の観点から考えます。

欲求は、生理的欲求と社会的欲求の大きく2つに分かれますが、マズローという人はこの欲求を5階層に分けて説明しました。これをマズローの欲求階層説と呼びます。

マズローは、人が成し遂げたいことを「自己実現欲求」と名付けました。また、自己実現欲求を満たすためには、4つの欲求を満たす必要があると考えました。

まず、「自己実現欲求」が生まれてくるためには、「自尊(承認)欲求」を満たす必要があります。「自尊(承認)欲求」とは、誰かに認められたいという欲求のことです。X(旧twitter)やインスタグラムで反応してもらえることに喜びを感じている人は、自尊(承認)欲求が不足している可能性があるということですね。

次に、「自尊(承認)欲求」が生まれてくるためには、「所属愛情欲求」が満たされる必要があります。みなさんは、好きな人がいたり、腹を割って話せたりする人はいますか?所属愛情欲求とは、誰かと精神的につながりたい、愛されたい、などの欲求のことです。孤独でさみしさを感じたり、入っているラインのグループが少なくて悲しさを感じていたり、猛烈に彼氏彼女が欲しいという気持ちが強くなっていたら、「所属愛情欲求」が不足しているのかもしれません。

そして、「所属愛情欲求」が生まれてくるためには、「安全・安心欲求」が満たされる必要があります。これは、自分が安全・安心を感じる場所にいられる、という欲求です。いじめがある教室のクラスに所属したい気持ちが出てこないのは、「安心・安全欲求」が満たされていないことの表れですね。

最後に、「安心・安全欲求」が生まれてくるためには、「生理的欲求」が満たされる必要があります。生命の維持に必要な欲求だと言われます。食欲、睡眠欲、性欲、排泄欲求などが該当します。人間は、極端な空腹や睡眠不足などの状態では、そのほかの欲求が出てこないということですね。

以上をまとめると、欲求階層説のポイントは4つで、①「5つの階層」であるということ / ②順番が固定されていること / ③「生理的欲求」→「安心安全欲求」→「所属愛情欲求」→「自尊(承認)欲求」→「自己実現欲求」という順番になっていること / ④前の欲求が満たされないと、次の欲求が表れにくいということが言えます。もし、自分のやりたいことを実現したい場合には、生理的欲求~自尊(承認)欲求までに目を向けてみると良いかもしれません。

ちなみに、生理的欲求以外の安心・安全欲求~自己実現欲求をまとめて社会的欲求」と呼ぶことがあります。また、自己実現欲求以外の生理的欲求~自尊(承認)欲求をまとめて欠乏欲求」と呼び、自己実現欲求を「成長欲求」と名付けて区別することがあります。

ただし、今まで説明してきたように、そんな簡単に欲求が満たされるとは考えづらいです。人間は欲求不満をクリアしても、葛藤に悩むこともあり得るからです。そこで、葛藤をもう少し深く学習します。

 

 

【悩みについて・補論②(葛藤の類型)】

葛藤は、複数の悩みが重なることを指し、レヴィンという人が提唱しました。マージナルマンを提唱した、あのレヴィンです。レヴィンは、葛藤を3つの類型に分類しました。みなさんは、以下の(1)~(3)の質問に対して、どちらを選択しますか?

 

(1)友達から遊びの誘いがあったが、同じ日に彼氏または彼女からデートの誘いもあった。どちらにも行きたいが、どちらの誘いにのるか。

 

(2)友人から「○○さんは、おまえのことが好きらしいよ」と言われた。本当なら告白をしたいが、ウソなら恥ずかしいから告白をしたくない。告白をするか。

 

(3)彼氏や彼女から「受験勉強をちゃんとしないなら別れよう」と言われた。受験勉強をしたくないが、彼氏や彼女にはふられたくない。どうすればいいのか。

 

これらの質問に対して、レヴィンは欲求を「~したい」または「~したくない」という2つに分類し、それぞれを接近欲求回避欲求と名付けました。そして、レヴィンは(1)接近―接近型 / (2)接近―回避型 / (3)回避―回避型の3つに葛藤を分類しました。

(1)はデートにも行きたいが、友達と遊びに行きたい、というように「~したい」が重なっています。(2)は告白をしたいが、告白をしたくもない、というように「~したい」と「~したくない」が重なっています。(3)は勉強もしたくないが、ふられたくない、というように「~したくない」が重なっています。

そのため、現在なにか悩んでいる人は、悩みが重なっている可能性があるため、葛藤の3分類に照らし合わせて、自分の悩みを冷静に分析した上での対処が必要かもしれません。しかし、悩みを分類しても悩んでいることには変わりないので、気持ちの整理をして落ち着かせることが必要です。この、気持ちの整理をして落ち着かせることを「防衛機制」と呼びます。

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