【日本銀行の役割3つと「景気の安定」という目的】
その国に1つだけ存在する銀行を中央銀行と呼びます。日本の場合は日本銀行です。
(なお、日本銀行は認可法人として上場しており、政府出資55%となっています。)
この日本銀行には、3つの役割があります。
日本銀行の役割①:政府の銀行
1つ目は、政府の銀行です。
これは、日本政府のお金の管理をしているのが中央銀行であるという単純な話です。
日本銀行の役割②:(唯一の)発券銀行
2つ目は、(唯一の)発券銀行です。
これは、紙幣を発行できるのが日本銀行のみであるという話です。
意外とこれは重要な話で、人々が使っているお札を見ると日本銀行券と書いてありますが、これは日本銀行が発券しているから日本銀行券なわけです。
では、小銭(硬貨)は日本銀行が作っていないのでしょうか。
実は、小銭は財務省が作っているので、貨幣は硬貨と紙幣に分けたほうがなにかと都合が良いということになります。
日本銀行の役割③:銀行の銀行
3つ目は、銀行の銀行です。
中央銀行は民間の銀行とやり取りをするという話です。
だからなに?と思いますが、ポイントはそこではないです。
ポイントは、民間銀行は家計や企業とやり取りをしますが、中央銀行は家計や企業とやり取りをしない、という部分です。
中央銀行は民間銀行としかやり取りしないので銀行の銀行ですね。
日本銀行の目的 = 物価と景気の安定(急に上げすぎない)
次に、中央銀行の目的ですが、これは1つだけで、「物価と景気の安定」です。
大事なのは「安定」です。
でも、冷静に考えて下さい。普通に考えたら「物価と景気の上昇」のほうが良くないですか。
経済の大前提として物価上昇(インフレーション)が景気を良くする方法として考えられるので、物価も景気も上昇させるべきだと思いますね。
そこで以下の空欄を考えましょう。
もしトマト1個が100円で買えるとしたら、ジンバブエで使われるジンバブエドルというお金で100円のトマトを買う場合、約( )ジンバブエドルを払うと買える。
この空欄の答えは、3京ですね。(現在はさらに変動していて、実際の金額はわからなくなってしまっています。)
ジンバブエという国では、物価上昇が進んだ結果、100兆ジンバブエドル紙幣が誕生し、300兆ジンバブエドル=1円となったときがありました。
トマト1個を買うのに、子供がリヤカーに大量の紙幣を積んで買い物に行く画像などもあるくらいです。
ここから分かることは、「物価を急激に上げすぎると、その国の経済がおかしなことになる」ということです。
そのため、中央銀行は物価と景気を急激に上げすぎるのではなく、日本銀行が政策を打ちながら、物価と景気をゆるやかに上昇させることが求められます。
この、ゆるやかな上昇を「安定」だと考えてください。
そして、安定させるために日本銀行が行う政策を金融政策と呼びます。
では、日本銀行の金融政策にはどのようなものがあるのでしょうか。
【日本銀行の金融政策の3パターン】
※金融政策を考える際の公式
金融政策を行う際に、大前提となる公式を確認しましょう。それは、
という公式です。
世の中に出回るお金が多ければ、企業や家計の手元に残るお金が増え、企業や家計がお金を使おうと考えるようになる、という理論ですね。
(世の中の通貨量を増やすことが景気を良くすることにつながるというわけです。)
そこで、具体的にどのような政策によって好況へ向かうか考えましょう。
〈金融政策の効果を考える例題〉
①日本銀行が、民間銀行に株式を売った。
②日本銀行が、公定歩合を引き上げた。
③日本銀行が、預金準備率を引き上げた。
④日本銀行が、買いオペを実施した。
ちなみに、上記の例題の正解は1つしかありません。①~④のうち、どの選択肢が好況へ向かうと考えられるのでしょうか。
※金融政策を考える際の大前提
思い出しましょう。
日本銀行は「(唯一の)発券銀行」なので、日本銀行だけ紙幣を作ることができます。
また、日本銀行は「銀行の銀行」なので、民間銀行としかやり取りができません。
さらに、公式で考えると好況へ向かわせるためには世の中の通貨量を増やす必要があります。
そのため、「紙幣を発行してできる限り民間銀行のお金の量を増やす」必要が出てきます。
そのための政策を金融政策と呼び、政策は全部で3つあります。
金融政策①:預金準備率操作(銀行が手元に残す割合)
1つ目は、預金準備率操作です。
例えば、民間銀行が100万円を持っているとした時に、民間銀行はいくらまで企業に貸したいと考えられるでしょうか。
思い出しましょう。銀行の儲け方は「たくさんお金を貸して金利で稼ぐ」でした。
当然、銀行は可能な限り多くのお金を貸したいと思うでしょう。
ただし、全額貸してしまったら、銀行で働く人の給料はどうなるのでしょう。光熱費などの維持管理費はどうなるのでしょう。預金を引き出したいという人に対応できるのでしょうか。
このような様々な事態を想定して、銀行はなにかあったときのために少しお金を手元に残しておく必要があるのですが、手元に残しておくお金の割合のことを預金準備率と言います。
この、預金準備率を日本銀行が設定する金融政策を預金準備率操作と言います。
では、預金準備率を上げた場合と下げた場合、どちらのほうが好況へ向かうのでしょうか。
100万円で考えましょう。預金準備率が30%を基準とした場合、手元に残すお金は30万円なので、70万円を貸し出すことができます。
もし、預金準備率が10%に下がった場合、手元に残すお金は10万円なので、90万円を貸し出すことができます。
一方、預金準備率が60%に上がった場合、手元に残すお金は60万円なので、40万円を貸し出すことができます。
これらを考えると、預金準備率が下がったほうがたくさんお金を貸し出せて、世の中の通貨量が増えるため、好況へ向かいます。
逆に、預金準備率が上がったほうがたくさんお金を貸し出せなくなるので、不況へ向かうことになります。
つまり、「預金準備率を下げる=好況へ向かう/預金準備率を上げる=不況へ向かう」ということになります。
金融政策②:公定歩合操作(民間銀行が日銀に返す金利を調整)
2つ目は、公定歩合操作です。
日本銀行は、発行したお金をできるだけ多く民間銀行に貸してあげることで、民間銀行の手元にお金が渡るようにしたいと考えます。
では、もし民間銀行が100万円を日本銀行から借りる場合、日本銀行が設定する金利は高い場合と安い場合のどちらのほうが借りたいと思うのでしょうか。
当然ですが、金利は安いほうが借りたいと思うでしょう。最終的に返すお金が安くなるからです。だとしたら
日本銀行は可能な限り金利を安くして民間銀行に借りてもらうことを考えます。この、民間銀行が日本銀行に返すときの金利を調整する政策を公定歩合操作と言います。
つまり、「公定歩合を下げる=好況へ向かう/公定歩合を上げる=不況へ向かう」ということになります。
ただし、預金準備率操作と公定歩合操作は、現在あまり機能していません。なぜでしょう。
それは、両方ともお金を借りることが前提だからです。
人は、景気が悪いと借りたお金を返せない不安から借りなくなります。
預金準備率や公定歩合をどれだけ下げても、企業や家計が民間銀行からお金を借りてくれないと効果がありません。
民間銀行としても、日本銀行から借りたお金を返せないのに日本銀行からどんどん借りるということはできません。
そこで、日本銀行は別の方法で世の中の通貨量を増やすことを考えました。
金融政策③:公開市場操作(日銀が株や債券を買って資金を増やす)
その方法が3つ目の、公開市場操作です。
誰もお金を借りてくれる状況でないならば、民間銀行が持っている株や債権を日本銀行が買うことで、民間銀行のお金を増やそうと考えたわけです。
逆に、日本銀行が持っている株や債権を民間銀行に売ることで、民間銀行が持つお金を減らすことができます。
日本銀行が株や債権を買う操作を買いオペと言い、日本銀行が株や債権を売る操作を売りオペと言います。
つまり、「日本銀行の買いオペ=好況へ向かう/日本銀行の売りオペ=不況へ向かう」ということになります。
このように、日本銀行は3つの金融政策で、物価と景気の安定をはかります。
そのため、先ほどの①~④で好況へ向かう選択肢は「④日本銀行が、買いオペを実施した。」のみになります。
(民間銀行へ株を売ったり、預金準備率や公定歩合を引き上げるのは、一般的に不況に向かうことになるわけです。)
【近年の金融政策】: ゼロ金利・量的緩和・インフレターゲット・マイナス金利
日本銀行が行う3つの金融政策を昔から考えられていた伝統的な金融政策と捉えて、近年の金融政策を別名で非伝統的金融政策と呼ぶことがあります。
そんな非伝統的金融政策(=近年の金融政策)にはなにがあるのでしょうか。
近年の金融政策①:ゼロ金利政策(コールレートをゼロにする)
1つは、ゼロ金利政策と呼ばれるものです。
銀行同士が短期でお金の貸し借りをする市場をコール市場と言います。(call=呼ぶという英語のように、呼んだらすぐに反応するのでコール市場です。)
このコール市場でお金を貸し借りするときの金利をコールレートと言います。
コールレートをゼロにする政策をゼロ金利政策と言います。注意すべきは、コールレートに公定歩合や預金準備率は関係ないということです。
あくまでも銀行同士のコールレートをゼロにするというものをゼロ金利政策と言います。
近年の金融政策②:量的緩和政策(大規模な買いオペ)
2つめは、量的緩和政策です。
基本的に、日本で行われている主な金融政策は公開市場操作でした。
つまり、買いオペをすることで通貨量を増やして景気を良くしていこうという考え方でした。
ただし、公開市場操作は少しだけでは効果が非常に弱いです。
だとしたら、もっと大胆に通貨量を増やしたほうがよいのでは?という考え方もあり得るでしょう。
このように、大規模な買いオペで通貨量を増やすことを量的緩和政策と言います。
近年の金融政策③:インフレターゲット(物価上昇の目標設定)
3つめは、インフレターゲットです。
経済の大前提のルールとして「インフレ=景気上昇」というのがありました。
だとしたら、目標を決めて強引にインフレさせるというのはどうか?ということになりました。
目標のことを別名でターゲットと呼びます。
つまり、インフレの目標を設定して、わざと物価上昇をさせていくことで景気上昇に持っていこうという考え方をインフレターゲットと呼びます。
なお、日本銀行は2013年にインフレターゲットを導入し、消費者物価の2%上昇を目標としました。
近年の金融政策④:マイナス金利政策(日銀預け金が減るように金利設定)
4つめは、マイナス金利政策です。
民間の銀行は盗難の心配や管理の難しさなどから、多くの現金を手元に置いておくわけにはいかないので、現金の一部を預金として日本銀行に預けています。
この預けているお金が世の中にたくさん出回れば、景気が良くなると考えました。
そこで、現金を日本銀行に預けておいた場合に預けていたお金が減っていくように金利を設定しました。この金利をマイナス金利と呼びます。
注意すべきは、ゼロ金利政策とマイナス金利政策は全くの別物であるということです。
このように、伝統的な金融政策とは別に非伝統的な近年の金融政策も考えられるようになってきましたが、
はたして、金融政策はどのようなものがこれから求められるのでしょうか。
※参考:金融政策のまとめ
1. 日本銀行の役割と目的
○中央銀行=その国に1つだけの銀行。日本は日本銀行。
○日本銀行の役割は3つ:
・政府の銀行(政府のお金の管理)
・発券銀行(紙幣を発行できるのは日銀のみ)
・銀行の銀行(民間銀行とやり取りする)
○目的は1つ:物価と景気の「安定」(急激に上げすぎない)。
2. 金融政策の大原則
○通貨量が増えると好況へ向かい、通貨量が減ると不況へ向かう。
3. 伝統的金融政策(3つ:好況にする操作)
○預金準備率操作:預金準備率=銀行が手元に残す割合。
・好況へ:預金準備率を下げる→貸出が増える→通貨量が増える。
○公定歩合操作:公定歩合=民間銀行が日銀に返すときの金利を調整。
・好況へ:公定歩合を下げる。
○公開市場操作:日銀が資産を買う/売ることで民間銀行の資金を増減させる。
・好況へ:買いオペ(買う)/不況へ:売りオペ(売る)。
4. 近年の金融政策(非伝統的)
○ゼロ金利政策:銀行同士のコールレートをゼロにする。
○量的緩和政策:大規模な買いオペで通貨量を増やす。
○インフレターゲット:インフレ目標を設定し物価上昇を狙う。
○マイナス金利政策:日銀預け金が減るように金利設定。