【市場の失敗とは】
企業が売上を増やす戦略の基本は、「価格と数量の調節」です。つまり、市場経済では市場メカニズムが機能することが前提です。
ところが、ある事情によって市場メカニズムが上手に働かない場合があります。この状況を「市場の失敗」と呼びます。(逆に考えると、市場の失敗を活用すると価格の調節以外で売上を増やすことができる可能性がある、ということになります。)
ここでは、市場の失敗として4種類を確認します。
【独占と寡占】
日本全国にあるスーパーをいくつ思い浮かべることができるでしょうか。
この質問は、住んでいる地域や、日頃どれくらいスーパーに意識を向けているかにもよりますが、イオンなどの大きなスーパーから地元密着の小さなスーパーまで含めると数え切れないくらいのスーパーが存在します。
では、スマホのキャリア会社をいくつ思い浮かべることができるでしょうか。
現在は、au、docomo、ソフトバンクなど、いくつかありますが、無数にあるわけではありません。
そのほか、ゲーム機を販売している企業をいくつ思い浮かべることができるか、と聞かれても任天堂(ニンテンドースイッチ)、SONY(プレステ)など、いくつかありますが、こちらも無数にあるわけではありません。
また、たばこを販売している企業について思い浮かべようとすると、JTというところ以外を思いつくことが難しいです。
このように、スーパーと違ってスマホやゲーム機など数社が市場をコントロールしている状態を「寡占」と呼び、たばこなど一社が市場をコントロールしている状態を「独占」と呼びます。
では、独占や寡占の状態にある市場では、どのように商品の価格が決定するのでしょうか。
独占や寡占の市場では、プライスリーダーに他社が従うとされます。
つまり、力があって価格を設定できる企業をプライスリーダーと呼び、プライスリーダーの価格に他の企業がついていくことで価格が決定されていきます。(このとき、プライスリーダーが設定した価格を管理価格と呼びます。)
また、管理価格には他の企業もついていかないと管理価格を設定した企業に負けて儲からなくなってしまうため、独占や寡占の市場では商品の価格が固定的かつ下がりにくくなってしまいます。この現象を「価格の下方硬直性」と呼びます。(逆に、スーパーマーケットは無数にあるため、価格の調節がライバルのスーパーに勝つために重要な要素の1つと考えられるわけです。)
そして、独占や寡占の市場では、価格の下方硬直性によって価格が下がらないため、価格ではない面で他の企業に勝とうとして競争が激化します。この競争を「非価格競争」と呼びます。(非価格競争では、広告やアフターサービスなどで差別化を図ることがあります。)
ただし、独占や寡占のような状態が続いてしまうと、「他に競争相手がいなくて勝手に儲かるから、別に新しい商品を作らなくてもいいか」と考えて企業努力をしなくなり、その業界や分野に新しい発想が生まれづらくなってしまうことが考えられます。
そこで、日本では法律で独占や寡占についてルールを設けており、その法律を独占禁止法と呼びます。
では、独占や寡占はなぜ発生するのでしょうか。
要因は複数考えられますが、有名なものの1つが「規模の経済性(スケールメリット)」と呼ばれるものです。
ある商品を手作業で作っていた場合に機械を導入することで大規模な生産が可能になります。生産が大規模になればなるほど、1つの商品を作るのにかかる費用が安くなり、結果的に商品を安く販売することができます。すると、他の企業は「そこまで商品を安くして生産することができないから、そもそもその商品を作らない」という判断をして他の企業と競争しないという選択をすることが考えられます。その結果、その市場から離脱することになるため、生き残る企業が少なくなってしまうわけです。
つまり、事業の規模が大きくなるほど、商品1つあたりの生産費用が安くなることで、他の企業と比較して有利になる状態を規模の経済と呼び、独占や寡占が発生する1つの要因とされます。
【公共財】
「灯台を使って儲けてください。」と言われたら、どのように儲けることを考えるでしょうか。
港などによくある灯台は、誰かが使用料を支払うわけではなく、また誰でも利用を制限されずに多くの人々が同時に利用できるという特徴があります。
そのため、灯台を使って稼ぐことが非常に難しいとされます。もし、仮に灯台を使ってお金を稼げたとしても、大きな儲けを生み出すことは難しいでしょう。「儲けを生み出せないのであれば、そのようなものは作らなくてもよいのでは?」という考えもあるかもしれません。しかし、船を運転する人などは灯台を頼りに運転していることもあり、灯台を作らないということは難しいでしょう。灯台は稼げないかもしれませんが、生活のためにはないと困るもののはずです。
このように、稼げないけどないと困るものを公共財と呼びます。そのため、公共財の提供は、利潤追求を目指す企業による提供は難しく、基本的に市役所などの公共サービスが行うことになっています。
なお、公共財は2つの要素を持ち合わせています。それが「非競合性」と「非排除性」です。
非競合性は多くの人々が同時に利用可能であること、非排除性は誰でも利用を制限されないことを指します。先ほどの灯台は多くの人々が同時に利用可能であり、誰でも利用を制限されません。そのため、灯台は公共財の典型的な例として捉えられます。
では、多くの人が同時に利用可能できなかったり、誰かの利用が制限されたりする場合は、何が考えられるのでしょうか。
例えば、Netflixのようなサブスクリプションと言われる定額サービスなどは、月額料金を払わないと利用を制限されてしまうため、非排除性はありません。しかし、逆に考えるとお金を払いさえすれば多くの人が同時に利用可能となります。そのため、非競合性は持ち合わせています。
また、無料の駐車場などは利用を制限されることはないため、非排除性はあります。しかし、駐車場は数に限りがあり、多くの人が同時に利用できるわけではありません。そのため、非競合性は持っていないことになります。
【情報の非対称性】
商品の買い手と商品の売り手では、持っている情報に差があります。そ
うすると、価格ではなく持っている情報の差によって商品の売れ行きが変わってしまう可能性があります。(買い手の持っている情報が少ないため、少ない情報で間違った商品を購入するという判断をしてしまう可能性がありえます。)
このように、情報に差がある状態を「情報の非対称性」と呼びます。
【外部経済・外部不経済】
ある高校の近くに、高校生に人気のお店ができました。そのとき、新しくできた人気のお店の近くで元々開店していたお店は、特になにかしたわけではありませんが、売上が増えました。
ある高校の近くに、高校生に人気のお店ができました。そのとき、新しくできた人気のお店の近くで元々開店していたお店は、特になにかしたわけではありませんが、売上が減りました。
このような例は、日常生活でよく見かける光景ですが、これも市場の失敗の1つとされています。
このように、なにもしていないのにお店の売上が増えるなどトクする状態を「外部経済」と呼びます。
また、なにもしていないのにお店の売上が減るなどソンする状態を「外部不経済」と呼びます。
つまり、外部経済の恩恵を受けながら、外部不経済によるダメージを回避していくことが、売上を増やす戦略の1つとして考えられるわけです。
なお、現代の社会では、外部経済の例として「商業施設の建設による地価の高騰」がよくあげられ、外部不経済の例として「公害の発生による被害」がよくあげられます。
これらのように、市場の失敗を用いることで、価格の面での工夫以外から売上に貢献することが考えられます。