【新しい人権とは?3つの注目ポイント】
新しい人権=「憲法に書かれていないけれど、現代社会で必要とされる人権」
日本国憲法の改正は1回のみで、大日本帝国憲法から日本国憲法になったときの改正だけとなっています。
つまり、戦後から日本国憲法は1度も変更されていないわけです。
しかし、戦後から現在まで約80年経過しているという月日を考えると、1946年に公布された日本国憲法の内容が現在の日本社会とマッチしているか、と言われたときに疑問符がつきます。
(80年で日本社会も国際社会も大きく変化しています。)
そこで、憲法に明記されていない内容について注目しましょう、という話になりました。
その際注目されたのが「人権」です。
この、「憲法に明記されていない人権」を新しい人権と呼びます。
「内容・訴訟・影響」の3つをセットで押さえる
また、新しい人権について、注目するべきポイントは全部で3つです。
1つめは内容です。
新しい人権の内容それ自体を確認する必要があるということです。
2つめは訴訟・判例です。
当然、憲法や人権の話になると裁判が絡んでくるので、裁判を確認する必要があります。
3つめは影響です。
裁判によって、どのような影響が見られたのか、それぞれの人権ごとに確認していく必要が出てきます。
つまり、新しい人権は「内容-訴訟-影響」の3つに注目する必要があるわけです。
ここでは、環境権、知る権利、プライバシーの権利、自己決定権を確認します。
【環境権】:良好な環境で暮らす権利
環境権の意味
環境権とは「良好な環境で生活する権利」のことです。ある意味当たり前ですね。
環境権については、3つの訴訟を確認します。
① 大阪空港公害訴訟:夜間飛行はどうなったのか
[判例①:大阪空港公害訴訟]
飛行機は近づくと分かりますが、ものすごい音がします。
大阪では大阪空港が誕生し、その大阪空港から飛行機が飛んでいました。
しかし、近隣住民は大阪空港から飛ぶ飛行機の音がうるさく、騒音のようだから飛行機を飛ばさないでほしいと思いました。
ただし、全ての飛行機を飛ばさないというのもヘンなので、環境権の保障を根拠に夜間のみ飛行を辞めてもらうようにお願いする裁判を起こしました。
はたして、夜間のみの飛行を辞めさせることはできるのでしょうか。
大阪空港公害訴訟の判決
判決は、「夜間飛行の差し止めは認められない」でした。(ただし、損害賠償は認められています。)ポイントは、「環境権が新しい人権として認められなかった」という点です。
② 国立マンション訴訟:マンションの高層部分の撤去は可能か
[判例②:国立マンション訴訟]
東京都国立市で高層マンションが建設されました。
しかし、あまりにも高層だったため、近くの住民の家に日光があたりづらくなり、景観が良好ではなくなってしまいました。
そこで、良好な景観を妨げないよう「マンションの高層部分のみを撤去してほしい」とお願いしました。
はたして、マンションの高層部分のみを撤去するという住民の請求は認められるのでしょうか。
国立マンション訴訟の判決
判決は、「高層部分を撤去するという住民の請求は認められない」として退けられました。
(裁判所は、撤去の必要無しと判断したということです。)
③ 鞆の浦景観訴訟:道路建設と景観維持はどちらが勝つのか
[判例③:鞆の浦景観訴訟]
広島県に鞆の浦という場所があり、景観の美しさで有名な場所となっています。(「崖の上のポニョ」という有名なジブリ映画は、そんな鞆の浦がモデルの1つになっていると言われています。)
ところが、鞆の浦に対して広島県が道路建設のために埋め立てを行うことを検討しました。
これに対し、鞆の浦の住民は「景観を維持してほしい」という理由で広島県の埋め立てを拒否しました。
結果的に、「埋め立てをしたい広島県vs鞆の浦の景観を維持したい住民」という構図の裁判となりました。
はたして、「景観維持のために埋め立てをさせない」という住民の請求は認められるのでしょうか。
鞆の浦景観訴訟の判決
判決は、「埋め立てを辞めてほしいという住民の要求を通した」というものでした。
(裁判所は、景観は国民の財産だと判断して住民の主張を通したと言われています。)
このように、環境権については、あらゆる角度からの裁判が行われています。
【知る権利とアクセス権】:情報公開と特定秘密保護法
内容は「国や地方公共団体が保有している情報」を知る権利です。
判決を1つ確認します。
判例 外務省公電漏洩事件:記者の行動と「国民の知る権利」の重要性の議論
[判例:外務省公電漏洩事件]
外務省が持っている情報を、ある女性の記者が違法に入手した、という事件が発生しました。その際、女性記者は「人々は知る権利があるのだから、私のやったことは間違っていない」として無罪を主張しました。
はたして、この女性記者は有罪でしょうか。無罪でしょうか。
判決は、「女性記者が有罪」となりました。
「知る権利」の影響:情報公開条例と情報公開法(地方から始まり、国へ広がった情報公開)
なお、知る権利に関しては、地方が情報公開条例を定めたことで注目を集めるようになり、地方の制定後に国が情報公開法を制定しました。
(情報公開法では、アカウンタビリティ(説明責任)を定めているとされています。)
ポイントは、「情報公開については、国よりも地方公共団体のほうが先にルールを制定した」という点です。
そして、情報公開に関しては、国である議論が行われました。
安全保障 vs 知る権利:特定秘密保護法の議論
[議論の内容]
日本では、「国家の秘密を漏らした公務員や、秘密を不正に入手した人に厳罰を与えるべき」という意見が登場しました。
この意見の目的は、「情報漏えいの防止をはかり、国や国民の安全の確保に資すること」だとされています。
一方、反対意見としては「国民の「知る権利」があるのに情報を隠して秘密を守らせていいのか」という考えもあります。
(実際、秘密に指定された情報は、「知る権利」の対象から除外されると考えられました。)
はたして、「国家の秘密を漏らした公務員や、秘密を不正に入手した人に厳罰を与える」法律は制定させるべきなのでしょうか、制定させてはいけないのでしょうか。
現在の日本では、「人々は、全ての情報を知る必要があるのか?」という立場から、「個人が国の安全保障にかかわる情報を流すのは違法である」という特定秘密保護法が制定されました。
ここでいう、国の安全保障にかかわる情報は防衛・テロ防止・外交などが該当しますが、具体的にその内容が特定秘密であるかどうかはどうやって判断すればよいのでしょうか。
現在は、内閣総理大臣の裁量で特定秘密の内容を判断することができるとされています。
つまり、内閣総理大臣次第で特定秘密の範囲が変更し、場合によっては逮捕される人が増える可能性があることが問題点としてあげられています。
また、特定秘密保護法は単純に知る権利や表現の自由の侵害の懸念があるのではないか、とも言われています。
「知る権利」の派生:アクセス権という考え方
知る権利から派生したものに「アクセス権」というものがあります。
これは、「マスメディアなどを通して自分の意見を表明できる権利」のことで、判決に注目します。
[判例:サンケイ新聞意見広告事件]
産経新聞という新聞に、自民党が共産党を批判する広告をのせました。
この広告に対して、共産党は抗議をしました。この共産党の抗議は通るのでしょうか。
結果は、共産党の訴えは通りませんでした。
【プライバシーの権利】:2つの小説の判決で整理
プライバシーの権利の内容は「私生活をむやみやたらに公開されない」ことと「自分についての情報を自らがコントロールする」ことの大きく2つです。
判例を2つ確認しましょう。
① 『宴のあと』事件:プライバシー権を裁判が認めるべきか
[判例①:宴のあと事件]
『宴のあと』という小説が出版されました。この小説の内容は、ある特定の政治家の私生活が題材だったため、題材にされた政治家が精神的苦痛で訴えを起こしました。
はたして、『宴のあと』という小説は、プライバシーの侵害にあたり、プライバシーの権利を主張することができるのでしょうか。
『宴のあと』事件の判決
判決は、「『宴のあと』はプライバシーの侵害にあたる」として、『宴のあと』事件によって初めてプライバシーの権利が確立されました。(特定政治家に慰謝料が支払われています。)
ただし、あくまでも新しい人権なので、憲法で明文化はされていません。
もう1つ、有名な判例を確認します。
② 『石に泳ぐ魚』事件:プライバシー侵害は出版差止めにまで影響を与えるのか
[判例②:石に泳ぐ魚事件]
『石に泳ぐ魚』という、ある女優が題材となった小説があります。この小説を出版しようとした際に、ある女優が「小説の内容で私のプライバシーが侵害されている」として、小説の出版差し止めを要求した裁判を起こしました。
はたして、『石に泳ぐ魚』という小説は、出版を差し止めすることができるのでしょうか。
『石に泳ぐ魚』事件の判決
判決は、「『石に泳ぐ魚』は出版差し止めにできる」というものでした。
(初の出版差し止めが認められた裁判となりました。)
「プライバシーの権利」の影響
プライバシーの権利に関しては、個人情報保護法(個人情報の取り扱いについていろいろと定めた法律)が制定されました。
通信傍受法とプライバシーの権利
また、プライバシーの権利に関しては、様々な論点がありますが、その中で1つ紹介します。
犯罪捜査のために、「当事者の同意なく」「お互いの通信の内容を把握する」法律を制定することはアリでしょうか、ナシでしょうか。
これについては、現在の日本ではアリとなっていて、実際に通信傍受法という法律が制定されています。
【個人情報と番号制度】:住基ネットとマイナンバー
改正住民基本台帳法とマイナンバー法
日本では、1999年に「改正住民基本台帳法」が制定されました。
住民基本台帳というもので11ケタの番号によって国民が管理されるようになり、国民総背番号制とも呼ばれました。
(なお、2002年には住基ネットが稼働しています。)
そして、2013年に「マイナンバー法」が制定されました。
今度は国民全員が12ケタの番号で管理されるようになりました。
しかし、マイナンバーについてはいろいろと議論が盛り上がっているのが現状です。
はたして、マイナンバーの制度は継続すべきなのでしょうか、それとも廃止すべきなのでしょうか。
マイナンバー制度をどう評価するか:論点の整理
マイナンバー制度は、メリットして、身分証の機能を果たす/コンビニで書類を受け取れる/役所のサービスを速やかに利用できる、などがあげられます。
一方デメリットは、マイナンバーカードの紛失リスクがある/個人情報流出の懸念がある/有効期限が切れた場合の対応が不便である、などがあげられます。
はたして、マイナンバーカードという制度は、今後どうしていくべきなのでしょうか。
【自己決定権】:生き方を自分で決める権利
自己決定権の内容は「生き方を個人が決める権利」です。
そうではないことがありえるのか、という疑問が生じるので、判例を確認します。
(なお、自己決定権の充実のためにはインフォームド・コンセント(患者などに十分な情報提供をすること)が必要だとされています。)
判例 輸血拒否訴訟:宗教上の理由で輸血を拒否した患者と医師の判断
[判例:輸血拒否訴訟]
ある病気を抱えた患者がいました。この患者は、輸血をしないと治療できない状況にあったのですが、宗教上の理由から輸血を拒否しました。しかし、担当の医師は「輸血以外に救命手段がない」ことを理由に輸血を行いました。
はたして、医師が輸血を行ったことは問題アリなのでしょうか、それとも問題ナシなのでしょうか。
判決は「問題アリ」となりました。(宗教上の理由で輸血を拒否したことは、裁判所は正当化されたというわけです。)
新しい人権は、憲法に明記されていないこと、環境権・知る権利・プライバシーの権利・自己決定権など様々な権利が考えられていることなどが特徴とされます。
はたして、これからの日本において、憲法にどのような内容を追加するべきなのでしょうか。
【あわせて読みたい】
・日本はどうやって「平和」を維持している?(いまの社会に合わせて憲法を考える視点を広げる)
・自由権の3分類と精神の自由(知る権利・プライバシーの土台を確認して理解する)
【参考:新しい人権と4つの権利を一気に整理】
このブロックで確認すること
・新しい人権とは何か
・「環境権/知る権利/プライバシーの権利/自己決定権」の4本柱
1.新しい人権とは
・憲法に明文はないが、現代社会の課題に対応するために必要とされる人権。
・内容は判例や立法の積み重ねで具体化してきた。
2.環境権
・良好な環境で生活する権利。
・判例では、環境権を正面から独立の権利として認めるというより、人格権や景観利益などの形で救済の範囲が判断される点がポイント。
3.知る権利・アクセス権
・国や自治体が持つ情報を知る権利(表現の自由とセットで理解)。
・情報公開の流れと、安全保障との緊張関係が頻出。
・アクセス権は、自分の意見を社会に届ける視点として押さえる。
4.プライバシーの権利
・私生活をみだりに公開されない権利+自分の情報をコントロールする視点。
・小説を素材にした判例の流れを、
「権利の確認 → 侵害の強い場合は差止めもありうる」
という理解で整理しておく。
5.自己決定権
・医療・生き方を自分で決める権利。
・説明と同意(インフォームド・コンセント)とのセットで問われやすい。
このように、権利ごとの整理がポイントとなります。