もし、長年にわたってひどい虐待を受けてきた人が、ついに加害者を殺してしまったとき、その人だけ特に重い刑罰になるとしたら、それは本当に「公平」と言えるでしょうか。
日本国憲法は、「すべて国民は、法の下に平等」であり、差別されずに個人として尊重されるべきだと定めています(14条)。
ここでいう「平等」とは、単に数字が同じという意味ではなく、差別がない状態をつくることです。
このページでは、
平等権について、婚外子に関する訴訟(婚外子相続格差規定事件・婚外子国籍訴訟)や尊属殺人重罰規定事件などを取り上げながら、「平等である」とは「差別がない」ということだという発想を、具体的な判例を通して考えていきます。
【平等権とは : 「差別がない」という状態を守る権利】
平等の対義語はなんでしょうか。
不平等ではなく、差別ですね。
つまり、平等権とは「差別されず個人として尊重される権利」のことです。
ここでは、「差別がない状態」を平等と考えます。
法の下の平等(憲法14条)と列挙されている差別の禁止事項
平等権の例として、「教育の機会均等」などがありますが、特に重要なのが憲法第14条の「法の下の平等」です。法律の適用は全ての国民に対して平等であることを示します。
なお、法の下の平等では人種や信条などによる差別を否定しています。事例をいくつか確認しましょう。
【平等権の判例①:婚外子に関する裁判(生まれによる相続や国籍の差別は許されるか)】
婚外子相続格差規定とは―相続分が嫡出子の2分の1だったルール
《最高裁判所の判決》
この規定を「婚外子相続格差規定」と呼びますが、裁判ではこの規定に対して違憲判決を出しています。
(現在、この規定はありません。)
この裁判では、
「子ども自身が選べない事情(婚外子であること)を理由に不利益を与えることは許されない」という点がポイントになりました。
また、婚外子については国籍についても裁判で争われました。
事実婚で生まれた子供(父:日本/母:フィリピン)の子供に日本国籍を取得させないのは違憲か?
という裁判について、日本の裁判所は違憲である(事実婚の子供の日本国籍の取得は憲法上可能)と判断しました。
→平等権と議員定数不均衡問題については、こちら(選挙制度について)で扱っています。
【平等権の判例②:尊属殺人重罰規定(親を殺した場合だけ特に重い刑でよいのか)】
事件のあらすじ――実父からの長年の虐待と、決断に至るまで
栃木県に住んでいたA子さん(女性:当時中2)がいました。このA子さんに対して29歳まで続いた事件があります。
A子さんは父とA子さんと妹の3人で暮らしていましたが、A子さんは実の父親に夫婦同様の関係を強いられ、5人の子まで産みました。(さらに、父から監禁もされていました。)A子さんが逃げればいいのではないか?という疑問もあるかもしれませんが、逃げると父から暴力を受けていたため、A子さんは諦めもあったそうです。
ところがある日、A子さんが働いている職場で一緒に働いていた男性と結婚したいと思うようになりました。A子さんは、そうはいっても実の父親なので、職場の男性と結婚したいことを実父に話しました。(実父という事実は否定できず、A子さんの中で受け入れました。)その話を受けて、実の父が怒ってしまいました。(その時の父が泥酔していたことも影響しているのかもしれませんが。)そこで、A子さんは、泥酔中の実父の首を絞めて殺してしまいました。その結果、A子さんが自首をしました。
あなたが裁判官だとしたら、A子さんにどのような判決を出すでしょうか。
話を分かりやすくするために、
「無罪/有罪(執行猶予)/有罪(実刑)/有罪(死刑)」のうち、どれに該当するか考えましょう。
刑法199条と200条――尊属殺人重罰規定とは何か
日本には、刑法199条に「殺人の場合は、死刑または無期懲役または3年以上(現在は5年以上)の懲役」という規定があります。(有期懲役でないと執行猶予がつけられない、というルールがあるためです。)この規定に照らしあわせると、無罪判決はさすがに出すことはできません。そのため、最低でも有罪(執行猶予)以上の判決が必要となります。
ところが、当時の裁判では、A子さんに死刑判決がでました。「これだけひどい状況で仕方なくA子さんが殺してしまったのに、A子さんが死刑になってしまうのはおかしいのでは?」という発想もあるでしょう。しかし、日本には刑法200条に尊属殺人という規定もあります。尊属とは「血縁関係が上の代にある者(父母や祖父母など)」という意味ですが、尊属殺人の場合は「死刑または無期懲役のみ」という規定になっています。(尊属殺人の理由は「身近な人を大切にすべき」の発想だとされています。)そこで、最高裁判所まで争われました。
刑法200条は憲法第14条(法の下の平等)に違反しているのではないか、と。(刑法199条を適用するべきではないか)
最高裁の判断―尊属殺人重罰規定は憲法14条違反で違憲
最高裁判所では、尊属殺人が重い罰になる規定は、憲法第14条(法の下の平等)に違反するとして、違憲判決を出しました。
そして、最終的な判決は「懲役2年6カ月/執行猶予3年」となりました。(現在は、尊属殺人は削除されて存在していません。また、尊属殺人重罰規定は、初の違憲判決だとされています。)
判例に注目すると、「平等とはなにか」ということを改めて考えさせられます。
はたして、「平等」とはなんなのでしょうか。
【あわせて読みたい】
・選挙制度と一票の格差(「平等選挙」を判例とセットで確認)
・人身の自由/外国人と人権(国籍や“誰にどこまで人権が及ぶか”の整理)
【※参考 : 平等権と2つの判例を一気に整理】
〈このまとめで確認すること〉
– 平等権とは何か(平等=差別がない状態という考え方)
– 婚外子相続格差規定事件のポイント
– 尊属殺人重罰規定事件のポイント
– 覚え方:「平等=差別がない状態」と2つの判例
1.平等権とは何か
– 平等権とは、「差別されず個人として尊重される権利」のこと。
– 日本国憲法14条は「法の下の平等」を定め、
人種・信条・性別・社会的身分・門地などによる差別を禁止している。
– このページでは、「平等である」とは「差別がない状態である」という考え方を中心に見てきた。
2.婚外子相続格差規定事件のポイント
– かつて民法は、婚外子(結婚していない男女の子ども)の相続分を、
嫡出子(法律上の夫婦の子ども)の2分の1とする規定を置いていた。
– 最高裁は、子ども自身が選べない「婚外子であること」を理由に不利益を与えるのは、
法の下の平等(憲法14条)に反するとして、この規定を違憲と判断した。
– この判例から、「生まれながらの事情を理由にした差別は許されない」という平等権の考え方が分かる。
– 同様に、婚外子の国籍に関する裁判からも「生まれながらの事情を理由にした差別は許されない」という平等権の考え方が分かる。
3.尊属殺人重罰規定事件のポイント
– かつて刑法200条は、「親などの尊属を殺した場合は、死刑または無期懲役」と定め、
通常の殺人よりも極端に重い刑しか選べないようにしていた。
– 長年にわたり実父から虐待を受けていた女性が、逃れようとして父を殺害した事件で、
この規定が問題になった。
– 最高裁は、尊属殺人だけを執行猶予もつけられないほど重く処罰するのは、
法の下の平等に反するとして、この重罰規定を違憲と判断した
(初の違憲判決としても知られている)。
4.覚え方:「平等=差別がない状態」と2つの判例
– 平等権 = 「差別されず個人として尊重される権利」
– 平等である = 「不平等がない」ではなく、「差別がない」状態と考える。
– 判例2つは次のように整理する。
① 婚外子相続格差規定事件や婚外子国籍訴訟
→ 生まれによる相続差別はNG(法の下の平等に反して違憲)
② 尊属殺人重罰規定事件
→ 親を殺した場合だけ極端に重い刑にするのはNG(法の下の平等に反して違憲)
テストや入試で平等権の問題が出たときは、まず
「これはどんな差別を問題にしているのか?」
「その差別は、本人が選べない事情を理由にしていないか?」
という視点を持つことで、正しい選択肢や判例を選びやすくなります。