もし、あなたが身に覚えのない罪で、ある日いきなり警察に連れて行かれたら……。
「ちょっと話を聞くだけだから」と言われて、長時間の取り調べや、自白の強要が始まったら、どんな気持ちになるでしょうか。
そんな「最悪の事態」を防ぐためにあるのが、憲法が保障する人身の自由です。
このページでは、人身の自由について、裁判に照らし合わせながら確認します。
また、日本における「外国人の人権」についても併せて確認します。
・ 精神の自由について(自由権の3分類と精神の自由の判例)
・ 経済活動の自由について(財産権/居住・移転・職業選択の自由と公共の福祉)
【人身の自由 : 裁判の前・中・後で人々を守るルール】
人身の自由とは何か――奴隷的拘束および苦役の禁止が前提
人身の自由とは、「あなたの身体がむやみに拘束されることはない」という意味です。
当然と言えば当然です。そのため、人身の自由の前提に「奴隷的拘束および苦役からの自由」があります。
「根本的に奴隷扱いはダメだよ」という当然の話ですね。
裁判の前に守られる人身の自由――罪刑法定主義・法定手続きの保障・令状主義
では、どういう場面で人は拘束されることになるのでしょうか。
それは、犯罪をしてしまったときです。
ただし、なにが犯罪なのかは文章などで明確にしていないと分かりません。
そこで、法律で人身の自由について規定しておく必要があります。
人身の自由の規定は大きく2つです。
1つは、法律で「なにが犯罪にあたるのか」を規定します。この規定を罪刑法定主義と呼びます。
もう1つは、法律で「刑罰を科す手順」を規定します。この規定を法定手続きの保障と呼びます。(法定手続きの保障によって、冤罪を防止しようという狙いもあります。)
なお、冤罪の対策例としては、録音や録画の義務化、取り調べの可視化
などが、現状進められています。
また、日本は令状主義を採用しています。
これは、誰かを逮捕するためには裁判官の令状が必要という話です。
むやみに逮捕することはできないというわけです。
(ただし、現行犯の場合は令状が必要ありません。)
裁判の最中に守られる人身の自由――推定無罪の原則と黙秘権
そして、実際に裁判になったときにも人身の自由が大きく3つ保障されます。
1つは、「基本的に裁判にかけられた人の無罪を信じる」という考え方です。この考え方を推定無罪の原則と呼びます。
もう1つは、「裁判中に話をしたくないことは黙っていて良い」という考え方です。この考え方を黙秘権と言います。
さらに、一定の場合には国選弁護人という制度があり、憲法上、お金がなくても被告人が弁護人の選任を国に依頼できる制度も整っています。
裁判の後に守られる人身の自由――拷問・残虐刑の禁止・一事不再理・遡及処罰の禁止
さらに、裁判後は「拷問・残虐刑の禁止」(実際に捕まった時に拷問などはダメ)
と「一事不再理」(無罪判決確定後にもう一度裁判をすることはできない)
の2つが人身の自由として機能します。
なお、裁判後に新しい法律が制定した場合、遡及処罰の禁止が適用されます。
(「新しく作った法律を過去に照らすことはできない」という話です。)
「奴隷的拘束および苦役からの自由」を前提に、
裁判前は「令状主義」と「罪刑法定主義・法定手続きの保障」があり、
裁判中は「推定無罪の原則」と「黙秘権」が該当し、
裁判後に「拷問・残虐刑の禁止」と「一事不再理」と「遡及処罰の禁止」が適応されます。
【※参考:外国人の人権の扱いについて : 指紋押捺制度と公務員採用の問題】
日本に住む外国人にも、性質上日本国民に限られる権利をのぞき、基本的人権は原則として保障されます。
そのうえで、具体的な論点を見ていきましょう。
日本における、外国人の人権の扱いについて話題となるものを2点確認します。
① 指紋押捺制度とは何か――廃止と復活の流れから考える
1点目は「指紋押捺制度」です。
これは、日本に1年以上在留する16歳以上の外国人が外国人登録証明書などの申請の際に指紋を押捺する制度を指します。
この制度は、外国人登録法という法律にもとづいて、在留外国人の管理を目的として行われていましたが、指紋押捺制度は外国人差別にあたるのではないか?という疑問や、採取された指紋の利用方法によっては個人のプライバシーが侵害される危険性があるのではないか?という指摘が出てきて、指紋押捺制度をなくすべきだという話になりました。
はたして、指紋押捺制度はなくすべきなのでしょうか。
結論として、指紋押捺制度は2000年に廃止されました。
ただし、注意点が1つあります。それは、「指紋押捺制度は復活している」という点です。
2001年の同時多発テロを受け、2007年に日本で開催される洞爺湖サミットでテロが日本で行われる懸念を踏まえて、出入国管理及び難民認定法にもとづいて2007年に復活しました。
② 公務員としての外国人採用と国籍条項――どこまで認めるべきか
2点目は「公務員としての外国人の採用」です。
自治体の公務員試験の募集要項などを見ると、日本国籍であることが条件となっていることがあります。(これを国籍条項と呼びます。)
このような国籍条項を残して、日本人のみ採用するというのは問題なのでしょうか。それとも、外国人が日本の公務員として働くことのほうが問題なのでしょうか。
現在は、地方の公務員試験で国籍条項の撤廃が進んでいるとされています。ただし、国家公務員はほとんど採用されないという現状があり、国は国籍条項の撤廃が進んでいないとされています。
はたして、国籍条項は撤廃していくべきなのでしょうか。
【あわせて読みたい】
【参考:人身の自由と外国人の人権をセットでおさえる】
このまとめで確認すること
– 人身の自由とは何か
– 裁判の前・中・後で守られる人身の自由
– 外国人の人権の基本ルール
– 指紋押捺制度と国籍条項のポイント
– 覚え方:「裁判の前・中・後+外国人の人権」
1.人身の自由とは何か(キーワード総ざらい)
– 人身の自由=「あなたの身体がむやみに拘束されないようにする権利」の総称。
– 前提として「奴隷的拘束および苦役からの自由」がある。
– 具体的には、罪刑法定主義・法定手続きの保障・令状主義・推定無罪の原則・黙秘権・
拷問・残虐刑の禁止・一事不再理・遡及処罰の禁止など、多くのルールで支えられている。
2.裁判の前・中・後で守られる人身の自由
〈裁判前〉
– 罪刑法定主義:何が犯罪か・どんな刑罰かを、あらかじめ法律で決めておく。
– 法定手続きの保障:逮捕から裁判までの手順を法律で決め、えん罪を防ぐ。
– 令状主義:裁判官の令状なしに、原則として逮捕・捜索はできない。
〈裁判中〉
– 推定無罪の原則:有罪が確定するまでは、無罪の可能性を重く見る。
– 黙秘権:話したくないことは黙っていてよい。自白の強要を防ぐ。
〈裁判後〉
– 拷問・残虐刑の禁止:刑罰としても人間らしい扱いをこえる苦痛を与えてはならない。
– 一事不再理:無罪が確定したあとに同じ事件で再び裁判にかけることはできない。
– 遡及処罰の禁止:あとから作った法律を、過去の行為にさかのぼって適用して罰することはできない。
3.指紋押捺制度と国籍条項のポイント
〈指紋押捺制度〉
– かつては、在留外国人に指紋の押捺を求める制度があった。
– 差別的ではないか・プライバシー侵害ではないかという批判から2000年に廃止。
– しかし、その後のテロ対策などを理由に、出入国管理法にもとづく形で事実上復活している。
〈公務員としての外国人採用(国籍条項)〉
– 地方公務員では、国籍条項(日本国籍を要件とする規定)の撤廃が進んでいる。
– 一方、国家公務員では依然として採用のハードルが高く、国籍条項の見直しが課題となっている。
4.覚え方:「裁判の前・中・後+外国人の人権」
⇒人身の自由は、「裁判の前・中・後」で守られる内容をセットで覚える。
– 前:罪刑法定主義・法定手続きの保障・令状主義
– 中:推定無罪の原則・黙秘権
– 後:拷問・残虐刑の禁止・一事不再理・遡及処罰の禁止
⇒外国人の人権は、「原則」と「例外」の2段階で整理する。
– 原則:在留外国人にも人権は及ぶ
– 例外:性質上、日本国民に限られる権利(参政権など)は除かれる
人身の自由については、
「これは裁判の前・中・後のどの段階の人身の自由の話か?」
「これは日本人と外国人のどちらを前提にした人権の話か?」
という視点を持つことで、理解がしやすくなります。