2-3. 個人の内面を憲法で守るとは?(自由権の3分類と精神の自由の判例)

  1. 【自由権の概要と注目する視点】
      1. 〈自由権の基本〉前提と3種類の区分
      2. 〈自由権を理解するための視点〉「権利」と「判例」の組み合わせを理解する
  2. 【精神の自由とは:イメージと4つの権利】
      1. 〈精神の自由のイメージ〉「その人が何を考えていても自由」
      2. 〈4つの権利〉思想良心/信教・政教分離/表現/学問
  3. 【思想良心の自由(三菱樹脂事件)】
      1. 〈権利の内容〉どんなことを考えていても自由
      2. 〈事案の概要〉三菱樹脂事件
      3. 〈判決のポイント〉憲法は原則として「個人対個人」には直接適用されない
      4. 〈※参考:思想・良心の自由の侵害の疑いのある法律(国旗国歌法・教育基本法)〉
  4. 【信教の自由/政教分離の原則(津地鎮祭訴訟・愛媛玉ぐし料訴訟)】
      1. 〈権利の内容〉どの宗教を信じるのも自由 / 〈政教分離の原則〉政治と宗教は分かれなければならない
      2. 〈判例①〉津地鎮祭訴訟
      3. 〈判例②〉愛媛玉ぐし料訴訟
      4. 〈※参考〉空知太神社訴訟・孔子廟訴訟
      5. 〈※参考:宗教の扱いについて〉OKなもの/NGなもの
  5. 【表現の自由(家永教科書裁判・チャタレー事件)】
      1. 〈権利の内容〉検閲の禁止と表現の自由
      2. 〈判例①〉家永教科書裁判
      3. 〈判例②〉チャタレー事件(チャタレー夫人の恋人事件)
      4. 〈※参考〉立川反戦ビラ事件
  6. 【学問の自由(東大ポポロ事件)】
      1. 〈権利の内容〉学問の自由と大学の役割
      2. 〈判例〉東大ポポロ事件
    1. 【※参考:自由権と精神の自由・判例のまとめ】
      1. このまとめで確認すること
      2.  1.自由権の3つの分類
      3.  2.精神の自由4つと代表的な判例
      4.  3.各判例の結論を一気に確認
      5. 覚え方の軸

【自由権の概要と注目する視点】

〈自由権の基本〉前提と3種類の区分

日本国憲法には、自由権に関する記述があります。

自由権とは「個人が国家権力による束縛から自由に行動する権利」とされます。
国家からの自由」というイメージですね。

 

この権利は[①精神②経済活動③身体]の大きく3種類に分かれます。

また、自由権は日本国憲法の個人の尊重が背景にあります。

 

〈自由権を理解するための視点〉「権利」と「判例」の組み合わせを理解する

なお、自由権は「○○の自由」というものが非常に多く、出てくる知識が整理しにくいという問題点があります。

そこで、自由権を理解するために必要なのが「判例」です。

つまり、「裁判で○○の自由がどのように考えられているか」ということを理解することが最終的なゴールとなります。

そのため、このページでは「権利の名称 ― 裁判 ― 判例」という3つの視点に注目して、自由権を理解していくことが必要となります。

 

 

【精神の自由とは:イメージと4つの権利】

〈精神の自由のイメージ〉「その人が何を考えていても自由」

精神の自由とは、個人の内面の自由を憲法で保障するものです。
簡単に言うと「その人がなにを考えていようと自由である」という話です。

 

〈4つの権利〉思想良心/信教・政教分離/表現/学問

精神の自由は具体的に「思想良心の自由信教の自由・政教分離の原則表現の自由学問の自由」の大きく4つが含まれます。

つまり、なにを考えるのも、どの宗教を信じるのも、なにを表現するのも、どのような学問をするのも自由だということが憲法で保障されています。

そのため、大きな4つの精神の自由のそれぞれを確認する必要があります。

 

 

【思想良心の自由(三菱樹脂事件)】

〈権利の内容〉どんなことを考えていても自由

名称の通り、人々はどのようなことを考えようと自由だという話です。(考えたことを実際に行動に移すのとはまた別の話です。)

代表的な裁判に三菱樹脂事件があります。
Aさんをクビにした三菱樹脂は憲法の思想良心の自由に反して違憲になるのでしょうか。

 

〈事案の概要〉三菱樹脂事件

三菱樹脂という会社にAさんが入社しました。企業には、一般的に試用期間というのがあり、採用された後に本当にこの会社やっていけるのかを会社側で確認する期間が設けられています。その期間をクリアすると本採用になる、という流れです。三菱樹脂は、3か月の試用期間を設けていました。この3か月の試用期間のときに、Aさんが学生時代に学生運動(学生が行う社会的・政治的な運動)を行っていたことが発覚した。そこで、三菱樹脂は学生運動を行なっていたような人を採用することはできないとして、Aさんを本採用としませんでした。

このとき、Aさんは「自分が学生運動を行っていたのは、思想良心の自由であり、自分をクビにする三菱樹脂という会社は憲法違反ではないか」と考えたわけです。

はたして、Aさんをクビにした三菱樹脂は憲法違反にあたる(クビは問題である)のでしょうか。それとも憲法違反にあたらない(クビにして問題ない)のでしょうか。

 

〈判決のポイント〉憲法は原則として「個人対個人」には直接適用されない

判決は、「違法ではない(クビにして問題ない)」となりました。
思い出しましょう。自由権は国家権力を縛るものでした。今回の裁判は、「個人」対「個人」の思想です。個人対個人はお互いに自由なので、違法性はないという判決になりました。

 

〈※参考:思想・良心の自由の侵害の疑いのある法律(国旗国歌法・教育基本法)〉

思想・良心の自由の侵害の疑いのある法律を2つ確認します。

1つは「国旗・国家法」です。
この法律では、日の丸や君が代を強制することになるのですが、強制は思想・良心の自由の侵害になるのでしょうか。
具体的な事例として以前に話題になったのは卒業式ですが、卒業式での国家斉唱の強制は問題ないのでしょうか。実際に、卒業式での国家斉唱の拒否に対して懲戒となった事例がありますが、最高裁判所は、懲戒は合憲(国旗・国家の強制は問題ない)として扱っています。

もう1つは、教育基本法の改正です。
「教育の憲法」とも呼ばれるくらい、日本の教育のベースについて記載されている法律ですが、この法律に「愛国心」教育について明記されるようになりました。
愛国心まで教育することは若者の思想・良心の自由の侵害になるのでしょうか。

 

 

【信教の自由/政教分離の原則(津地鎮祭訴訟・愛媛玉ぐし料訴訟)】

〈権利の内容〉どの宗教を信じるのも自由 / 〈政教分離の原則〉政治と宗教は分かれなければならない

信教とはなんの宗教を信じるのも自由という話です。
その内容の一部に政教分離の原則があります。
これは政治と宗教は分かれなければいけない、という考え方です。(政治と宗教がくっつくのは良くないという話です。)

代表的な裁判に津地鎮祭訴訟愛媛玉ぐし料事件があります。

 

〈判例①〉津地鎮祭訴訟

建築工事などを開始する際に、その土地での災いが鎮まるように工事の無事を祈る祭事のことを地鎮祭と呼びます。

ある時、三重県の津市が地元神社に対し、地鎮祭の謝礼を公費で支出しました。この津市の地鎮祭に対する公費支出が政教分離の原則に違反するのではないか、ということになりました。政教分離の原則違反なのでしょうか。

 

《津地鎮祭訴訟の判決》

答え(裁判所の判断)は、政教分離の原則に違反しない(=違憲ではない)でした。
裁判所は、①行為の目的に宗教的意義が含まれるか/②支出の効果が特定宗教への援助にあたるか、という2つの基準で判断しました。(これを目的効果基準と言います。)
①地鎮祭は世俗的行事であり、宗教行事ではないため、宗教的意義は含まれず、
②支出の効果は、特定宗教の援助にあたらないと判断し、合憲となりました。

 

〈判例②〉愛媛玉ぐし料訴訟

靖国神社という場所があります。この神社はA級戦犯(第二次世界大戦後の国際軍事裁判で「平和に対する罪を犯した戦争犯罪人」として起訴された人達)を祀っている神社として有名で、歴代首相が参拝するかどうかで話題になることがあります。(戦争犯罪人に参拝するとはどういうことか!という意見もあれば、同じ日本人で日本のために頑張った人達に参拝しないのはどうなんだ?という考えもあり、注目されることがあります。また、歴代首相で公式参拝したのは中曾根康弘首相のみとなっています。)

そんな靖国神社に対して、愛媛県が玉ぐし料を公費で支出しました。なお、玉ぐしとは金品のことで、遺族の願いがあったことが支出の理由だとされています。

この靖国神社への玉ぐし料の支出に対して、愛媛県松山市の住民が「玉ぐし料の公費支出は政教分離の原則に対する憲法違反ではないか」として、県知事と県職員に対して損害賠償請求を行いました。愛媛県の玉ぐし料の公費支出は違憲でしょうか、合憲でしょうか。

 

《愛媛玉ぐし料訴訟の判決》

答え(裁判所の判断)は「憲法違反にあたる」でした。
特定宗教の援助にあたるという扱いになったわけです。

 

〈※参考〉空知太神社訴訟・孔子廟訴訟

なお、[空知太神社訴訟]と呼ばれる、公有地を神社の敷地として無償で使用させたことが政教分離の原則に反するのではないか、という論点の裁判も違憲判決が出ています。

また、[孔子廟訴訟]とよばれる、孔子廟(=孔子を祀る寺院)を建てるために、沖縄県那覇市が無償で土地を提供したことに対し、孔子廟への土地の無償提供は、政教分離に反するのでは?という裁判で、こちらも違憲判決が出ています。

 

ちなみに、信教の自由/政教分離の原則については、「愛媛玉ぐし料訴訟」「空知太神社訴訟」「孔子廟訴訟」の3つだけが違憲判決になっているというようにおさえておくとラクです。

 

〈※参考:宗教の扱いについて〉OKなもの/NGなもの

宗教については、OKなものとNGなものがあります。

OKなものは、宗教的結社です。これは認められています。

NGなものは、国からの特権を受けることと、宗教教育です。これらは認められていません。
(ただし、私立学校においては宗教教育が認められています。一部の学校では、時間割の道徳が宗教になっている、という学校もあります。)

 

 

【表現の自由(家永教科書裁判・チャタレー事件)】

〈権利の内容〉検閲の禁止と表現の自由

日本国民は、何を表現するのも自由という、名称の通りの内容です。

表現の自由があるため、憲法では日本政府による検閲(出版物の内容を事前に確認して、出版の是非を判断すること)の禁止が明記されています。

では、この表現の自由はどこまで認められるのでしょうか。

 

〈判例①〉家永教科書裁判

家永三郎さんという、当時の東京大学の教授が高校の日本史の教科書を執筆したのですが、その教科書を文部大臣が検定不合格(教科書として流通させられない)という判断を下しました。これについて家永三郎さんは、「教科書検定は表現の自由に反し、検閲も行っていることになる」として裁判を行いました。

はたして、教科書検定は表現の自由に反し、また検閲に該当するのでしょうか。

 

《家永教科書裁判の判決》

答え(裁判所の判断)は、「教科書検定は合憲である」です。
裁判所は、教科書という性質上、検定を行うのは仕方ないとしています。そのため、児童生徒が普段使っている教科書には「検定済み」という表現がどこかに記載されています。

 

〈判例②〉チャタレー事件(チャタレー夫人の恋人事件)

ある英文学者が『チャタレー婦人の恋人』という海外で作られた小説を日本語に翻訳しました。
すると、その翻訳した『チャタレー夫人の恋人』を読んだ、ある出版社の社長が「内容が良く、うちで出版したい」ということで出版しました。
ところが、この後に『チャタレー夫人の恋人』を翻訳した英文学者と出版社の社長が起訴されてしまいました。
その理由は、「内容がわいせつであった」というものです。(そのため、英文学者と出版社社長は刑法175条(わいせつ文書頒布罪))で起訴されました。
ただし、英文学者と出版社社長は、「日本国憲法では表現の自由が保障されている!」として無罪を主張しました。

はたして、英文学者と出版社の社長は、「表現の自由」を理由に無罪となるのでしょうか。

 

《チャタレー事件の判決》

結果は、有罪となりました。
裁判では、わいせつな小説の出版は「公序良俗に反する」ということで有罪となりました。
つまり、個人の自由よりも、社会の秩序を優先したというわけです。

 

〈※参考〉立川反戦ビラ事件

なお、表現の自由の裁判には、「立川反戦ビラ事件」と呼ばれる、
市民団体3名が自衛隊のイラク派遣についてのビラを作成し、立川市の「防衛庁職員宿舎」の郵便受けに配布した際に住居侵入で逮捕されたことに対し、市民団体3名が「表現の自由を考えたら、住居侵入で逮捕はおかしい」という論理で無罪を主張した裁判がありましたが、
結果的に有罪になっています。(表現の自由だからといって、住居侵入してよいというわけではない、という当然の話です。)

 

 

【学問の自由(東大ポポロ事件)】

〈権利の内容〉学問の自由と大学の役割

小中高と違い、大学は学問を行います。既存のびに対してうことをするのが大学なので、小中高のように「教科書の内容を確実につかもう」というようなことは行いません。

そんな学問に憲法上の制限がかかると科学的な進展がなく、新たな発見につながることも難しく、結果的に学問が止まってしまいます。
そこで、憲法では学問の自由を保障しています。

ただし、小中高は学問を行う場所ではないので、「学問の自由があるから爆弾の作り方を理科で教えろ!」みたいなことはできないわけです。

なお、小中高で学習する内容は学習指導要領という枠組みがありますので、学問ではなく学習指導要領が小中高にとっては重要になります。

そんな学問の自由を根拠とした裁判の判決はどうなるのでしょうか。

 

〈判例〉東大ポポロ事件

東京大学に「ポポロ劇団」という学生団体がありました。ポポロ劇団は松川事件という政治的題材を扱った劇を行いました。この劇を私服警察が観客に混じってみていたところ、ポポロ劇団のうちの1人が私服警察を発見し、警察手帳の提示を要求した際に暴行したとして起訴されました。東大生は、暴行に対して「警察が学校内に立ち入ることは学問の自由を侵害する」として、無罪を主張しました。

はたして、この東大生は有罪でしょうか、それとも無罪でしょうか。

 

《東大ポポロ事件の判決》

結果は東大生に有罪の判決が出ました。

最高裁判所は、「学問の自由と政治的自治は無関係」という判断を出しました。(ただし、一審と二審は無罪でした。)

 

なお、学問の自由は、一般的に「大学の自治」で保障されていると言われています。

 

このように、精神の自由は判例と一緒に確認して理解することが必要になります。

 

【あわせて読みたい】

 

【※参考:自由権と精神の自由・判例のまとめ】

このまとめで確認すること

・ 自由権の3つの分類
・ 精神の自由4つと代表的な判例
・ 各判例の結論を一気に確認する

 

 1.自由権の3つの分類

・ 自由権とは、「個人が国家権力による束縛から自由に行動する権利」(国家からの自由)
・ 3つの分類:
① 精神の自由 … 頭の中・信仰・表現・学問などの内面・精神活動
② 経済活動の自由 … 職業選択の自由・居住移転の自由・財産権など
③ 身体の自由 … 逮捕・捜索・拘禁などから身柄を守る自由

 

 2.精神の自由4つと代表的な判例

・ 思想良心の自由 … 三菱樹脂事件(私人間に憲法は原則直接適用されない)
・ 信教の自由・政教分離の原則 … 津地鎮祭訴訟・愛媛玉ぐし料訴訟・空知太神社訴訟・孔子廟訴訟
・ 表現の自由 … 家永教科書裁判・チャタレー事件・立川反戦ビラ事件
・ 学問の自由 … 東大ポポロ事件(学問の自由と大学の自治)

 

 3.各判例の結論を一気に確認

・ 三菱樹脂事件 … 合憲(クビは有効)
→ 憲法は原則として「国家権力」を縛るものであり、個人対個人には直接適用されない
・ 津地鎮祭訴訟 … 合憲(目的効果基準でOK)
・ 愛媛玉ぐし料訴訟 … 違憲(靖国神社への玉ぐし料公費支出はNG)
・ 空知太神社訴訟 … 違憲(公有地を神社が無償使用するのはNG)
・ 孔子廟訴訟 … 違憲(孔子廟への土地無償提供はNG)
・ 家永教科書裁判 … 教科書検定は合憲(検閲には当たらない)
・ チャタレー事件 … 有罪(わいせつ文書の出版は公序良俗に反する)
・ 立川反戦ビラ事件 … 有罪(表現の自由でも住居侵入は許されない)
・ 東大ポポロ事件 … 有罪(学問の自由と政治的自治は無関係)

 

覚え方の軸

1. 自由権=「国家からの自由」であり、精神・経済活動・身体の3分類がある
2. 精神の自由4つ=「考える(思想良心)・信じる(信教)・表す(表現)・究める(学問)」
3. 「権利の名称 ― 裁判の名称 ― 判例」のセットをおさえる

この3つに注目することが重要になります。

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